世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.921

米中貿易摩擦が始まった

武者陵司

(武者リサーチ 代表)

2017.10.02

 北朝鮮の火遊びに目を奪われがちだが,より深遠な影響を国際経済に対して及ぼすものは,今始まりつつある米中貿易摩擦であろう。

 国際社会はますます個人独裁色を強め,国家資本主義色を強め,対外進出を強める中国との折り合いが悪くなっている。覇権国米国のアジアでのプレゼンスは大きく下がった。そしてとうとう中国は米国の旗艦企業分野,ハイテクの心臓部での世界制覇に乗り出した。中国企業は海外企業によって公開させた技術を国産化し対外輸出に打って出る。新興国例えばインドにおけるスマホやインターネットサービスでは米国企業を大きく凌駕している。また米国の対中最大輸出品目の半導体も爆投資により国産化される見通しだ。2000年世界シェア10%台であった世界粗鋼生産に占める中国のシェアは2012年には50%と飛躍的に高まった。採算を度外視した強投資を続けた賜物であるが,それを今度は半導体分野において再現しようとしている。

 中国の急速な経済台頭は,米国の寛大な関与が決定的であった。米国の対中貿易赤字は3500億ドルと全体の5割を占める。また米国の対中経常赤字は過去10年間にわたって米国GDP比2%前後で推移してきた。中国の高速成長は米国からの巨額の所得移転によって可能となったといえる。中国は対米輸出の多くは米国企業による現地生産だと主張するが,中国の輸出に占める外資系企業比率は少し前の6割から4割に減少している。

 トランプ政権の対外経済政策のアドバイザーであるピーター・ナバロ氏は著書の中で「米国の対中経済関与が中国経済を成長させた。経済的関与は中国共産党の独裁権力を強め,中国の軍事力増強に資金を無償提供したに過ぎない」と主張しているが,それは明白であろう。ナバロ氏は,また著書『米中もし戦わば——戦争の地政学』(日本語訳,文藝春秋)で共産党独裁政権の中国の覇権追及は変わりようがない事,それは必然的に米中衝突を引き起すこと,それを回避するには中国の軍事力増強の基礎である中国経済力を弱め,他方では米国国防力を増強し,未然に中国に米国覇権に挑戦する意欲をそぐことしかない,と主張している。

 もはや米国は中国の挑戦を容認できず,米中貿易摩擦が始まった。トランプ氏はUSTR代表に日米摩擦の立役者ライトハイザー氏を任命し,通商法301条に基づき,不正行為の調査を開始した。民主党のシューマー上院院内総務が「トランプ大統領は公約通り中国を為替操作国と認定せよ」と求めるなど今やワシントンは対中封じ込めの機運に満ちている。国際ルールからかい離した中国の通商慣行(不法な輸出補助金,通貨操作,知的財産の窃盗,強制的技術移転,多岐にわたる非関税障壁など)を是正させる,ということが起きるだろう。

 中国は資本流出に危機感を強め資本規制を実施している。それはIMFとの約束違反。だが,人民元を高めに維持することは中国の競争力を殺ぐので米国にはメリットがあり,見て見ぬふりしている。日本のエレクトロニクス産業に壊滅的打撃を与えた日米摩擦が米中において再現されるリスクが高いことを念頭に置きたい。

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