世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.813

米国の「攻撃的ポピュリズム」と「経済民主主義」(No.1)

平田 潤

(桜美林大学 教授)

2017.03.20

 筆者は,昨年の米大統領選(予備選)序盤の情勢について,「トランプ旋風とサンダース現象」(「国際金融」誌2016年4月No1283)と表現し,米国を席捲しつつあるラジカルな動向として理解した。同時に両者の特質を「攻撃的ポピュリズム」と「過激な経済民主主義」として把握することを試みた。このアプローチは,「ポピュリズム」及び「民主主義」の厳密な定義や内容に則ったものではないが,両者が指向する「ベクトル」そして「ダイナミズム」に見られる本質的な差異に基いている。本来「ポピュリズム」は「大衆迎合の政治(政治家)」の意として使用されているが,突然変異的に発生・顕在化するものではなく,「民主主義」の亜種・変種の側面があり,民主社会にも一定の割合で存在する。ポピュリズムとして歴史的に参照されることが多いのは,米国で19世紀末,農産物価格の低迷に悩まされた小農層を支持基盤とし,急進的な改革を追求して設立された人民党(Populist Party)の活動や,中南米諸国の政権・政党についてであった。

 しかし現在欧州では統合が深化するに従い,EUの官僚的支配への反発や,各国独自の伝統への回帰の機運を背景に,反EU・反移民/難民受け入れを標榜し,支持を急拡大させている諸党派の共通項として「ポピュリズム」が指摘されている。つまり現政権与党のみならず既成政党には,もはや信認を与えられないという国民層が徐々に増大している。

 近年の欧米先進国における政治展開に,「ポピュリズム」が色濃く見られるようになった背景には,共通して中間層の経済・社会的な不安定化(とくに雇用と所得面)が見られる。さらには,

  • ① 経済成長の落ち込み・鈍化の持続による,労働分配率の長期的な減少・停滞
  • ② 深刻な危機・ショック(経済・金融面)による生活への直接・間接的なダメージ
  • ③ 経済構造の持続的変化〔IT革命の進行により,既存労働力(質・ノウハウ)の陳腐化〕
  • ④ 経済社会における成功機会〔チャンス〕の減少と流動性の停滞
  • ⑤ 経済社会への不安と不満の増殖,不公平感(上層・下層双方に対する)への怒りが昂進
  • ⑥ 孤立感と被害者意識の拡大
  • ⑦ ①〜⑥の問題を真摯に受け止め着実に改善・改革する既成政党・政治勢力の不在や,力不足

などが要因として考えられよう。

 そして2016年米国大統領選挙では,不安定化した中間層にスポットを当て,その不満・怒りを取り込み,これを解決すると公約したトランプ氏が予想を覆して当選を勝ち取った。トランプ氏は「富とビジネス」の専門家であるが,不法移民/イスラム難民への排撃,PC(ポリティカル・コレクトネス)への嫌気といった,ポピュリズム的要因にアピールしたことが追い風となった。

 こうした欧米先進国で存在感を増している「ポピュリズム」は,投票行動(選挙),社会運動,圧力団体といった民主主義の枠組み内で噴出しており,①それまで実質的に無視・軽視されてきた階層やグループに光を当てその不満や怒りを吸い上げる,②以前の各国政策施策がもたらした(あるいは放置してきた)構造問題や矛盾を掘り起し,改革を要求するエネルギーとして重要な役割を果たすことは否定できない。

 他方で「ポピュリズム」は,抜きがたい不満や怒りに支えられ,非常にいびつな政治・政策を招来するリスクが大きいことは言うまでもない。一面的でバランスに欠けるのみならず,見当違い・時代逆行・経済合理性を無視・その場しのぎ・人気取り的な政策対応により,矛盾と混乱・対立を一段と激しくさせかねないといえよう。すでにトランプ政権では,通商政策や移民政策等で,これまでにない「分断」・「対立」を助長する施策に,大きなエネルギーを注いでいる。

 今回,米国で「攻撃的ポピュリズム」に乗ったトランプ旋風が,勝利を収めた背景としては,様々な要因が指摘されるが,根源的にはアメリカの直面している3つの困難があると思われる。

  • ① オバマ政権による米国経済の復興・改革が,3つのRのうち,Reliefには成功したものの,Recoveryは十分に達成したとはいえず,Reformは中東半端・道半ばであったこと
  • ② 米国で歴史的に,重要な役割を果してきた「経済民主主義」の退潮が続き,経済・社会の改革を実現するには,現状では力不足であること
  • ③ 90年代以降本格化したIT革命が加速した産業構造の激変が,中間層の雇用や所得の安定性をこれまでになく,脅かしていること。

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