世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.809

「自由貿易」と「保護貿易」について考える

飯野光浩

(静岡県立大学 教授)

2017.03.13

 2017年1月20日にドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任して,トランプ政権が正式に発足した。この政権の一番の特徴は,外交・安全保障や経済などあらゆる分野で「アメリカ第一主義」の考え方を鮮明にしたことである。もちろん,これは貿易分野でも例外ではなく,自国優先の保護主義的政策方針を明確にしており,自由貿易は危機に瀕している。具体的な産業でみると自動車や鉄鋼などの製造業を保護の対象としており,また貿易赤字を望ましくないと考える狭い視野での重商主義的傾向が強い。つまり,貿易を2国間のゼロサムゲームと捉えている。特に中国やメキシコとの貿易赤字を問題視して,両国からの輸入に高関税をかけるとトランプ大統領は,たびたび表明している。このようなアメリカの態度に関して,日本は概して批判的である。日本市場でアメリカ製自動車が売れないのはアメリカ企業の努力不足であり,中国製品やメキシコ製品への高関税は庶民の生活を悪化させる,というような論調が目立つ。

 ひるがえって,日本はどうか。安倍晋三首相は自由貿易を推進する姿勢を示している。アメリカが環太平洋経済連携協定(Trans-Pacific Partnership;TPP)からの離脱を表明しても,日本はTPPを支持し,発効に向けて努力するとしている。しかし,日本は農産品を関税で保護している。例えば,牛肉の関税率は38.5%,米の関税率は778%であり,農産品の平均関税率は21.0%とかなり高い。現在の論調は日本の自由貿易を支持するというものが目立つが,日本は農産物に高関税をかけていることを忘れてはならない。

 つまり,日本はアメリカのことを言えないのである。この貿易の自由化に関しては,さまざまな議論がなされているが,ここでは別の視点から考える。それは,社会保障としての「自由貿易」である。TPPにおける自由化論議で不思議に思うことは,消費者団体が食品の安全性を理由として,自由化に反対したことである。貧困者対策として貿易自由化に賛成という消費者団体や関連NGOを聞いたことがない。

 現在,日本の貧困は深刻である。2013年の国民生活基礎調査によると,2012年の日本の相対的貧困率は16.1%,子供の貧困率は16.3%である。この数値を2014年版子ども・若者白書に掲載されているOECDの報告書のデータと比べてみると,OECD平均の相対的貧困率は11.3%で,子どもの貧困率は13.3%であり,日本はOECD平均を上回っている。さらにOECD加盟34か国のうち,相対的貧困率は29位であり,子どもの貧困率は25位である。つまり,それぞれ,貧困率が最も高い下から数えて6番目と10番目ということであり,日本は先進国のなかで深刻な状況である。

 このような厳しい貧困状況の中で,農産物の関税率を削減して,生活の厳しい貧困者の生活を支援するという視点で貿易自由化を考えることも重要ではないか。日本やアメリカの議論から言えることは,保護貿易の「保護」はロビー活動などで政府に影響力を行使できる特定産業を保護し,自由貿易の「自由」は貧困からの自由(解放)を意味する,ということである。

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