世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.789

「トランプイズム」をひもとく:3つの「第一主義」とは何か?

平田 潤

(桜美林大学 教授)

2017.01.30

 トランプ氏は2016年選挙戦の時点から,それまでは実質的に封印されてきた「パンドラの函」を開けた様々な発言で物議をかもしてきたが,その基調は大統領当選後もあまり変化が見られない。そして政権移行チームが発足し,異彩を放つ主要閣僚指名が次々に進められたことに加え,新大統領が発した諸メッセージのアナウンスメント効果は非常に大きかった。トランプ大統領の場合,基本的かつ中長期的な政策理念が,「一般教書」や「予算教書」に示される前に,「選挙戦」の延長モードともいえる中での強力な発言(主にツイッターや,独占インタビュー,そして攻撃的な記者会見による)で,米国はもとよりグローバル経済に対し〔金融市場から個別企業まで〕多大なインパクトを与えた。2017年1月20日には,第45代大統領就任式が行われたが,就任演説もまた「America First」「Buy American」「Hire American」を強調するなど,これまでと比べて異色のアピールとなった。さらに就任後に早速,TPPの離脱や,オバマケアー見直し等を指示する「大統領令」「大統領覚書」を連発し,その勢いは止まっていない。

トランプ・スタイルの特徴(仮説)=3つの強烈な「第一主義」

 トランプイズムを理解する上では,まず同大統領のスタンスがどこにあるかを推定することが重要である。拙稿は(仮説ではあるが),3つの強烈な「第一主義」を,プラットフォームとして指摘したい。即ち,A:米国第一主義,B:「トランプ氏の岩盤支持層」第一主義,そして,C:「交渉(ディール)」第一主義,である(紙面の関係から,本稿では「経済」に的を絞って展開したい)。

A:米国第一主義

 トランプ大統領の米国第一主義とは,選挙戦でのキャンペーン「Make America Great Again」の帰結であり,今後同政権の政策の最も重要な「基本理念」になることは間違いない。

 まず「経済(通商政策・経済政策)」分野では,米国の直接的経済利益を最優先して貿易・投資・通商をリードし,投資・雇用を創出していくというものである。その主張する所としては

  • ・これまでの連邦政府の政策(とくにTPP,NAFTAなど通商政策)は,米国を損なってきた,
  • ・米国を代表する製造業は長期に亘り大ダメージを受け,地域は荒廃し,雇用も富も失われた
  • ・米国民は外国製品の過度な流入や,不法移民による雇用侵害の結果,大きな損害を受けている

 従って,これまでの不利益で不当(と考えられる)な枠組みは,「米国を第一」に考えた視点により,改変されるべきである(自由貿易原則や多国間関税協定に違背することも辞さない?)。

 こうした経済的自国優先(保護)主義を前面に出す考え方は,新しさというより既視性を感じさせる。つまり70〜80年代,日米貿易摩擦《半導体や自動車等》でのキャンペーン(米国製造業の優位性が喪なわれる中で対日貿易赤字が累積したが,競争力衰退の真因を直視せず,原因を通貨《不当な円安》,市場の閉鎖性や非関税障壁の存在,ダンピング的価格に帰して,日本の輸出自主規制等を求める)の蒸し返し的発想であり,米国の利害を専一に,強い経済的な立場と姿勢により,相手に鋭く譲歩妥協を求めるタイプの「通商政策」をオーソライズするに他ならない。

 またマクロ・セミマクロ経済政策では,米国の成長(成長率4%が目標値)を確実にするためのパッケージ(今後「トランプノミクス」と称される?)が組まれ,投資増,雇用増,輸出増,(結果として一段の消費増)を図るための税制改革(大減税),規制緩和や廃止(とくに企業向け),通貨政策が打たれ,政府支出の増大(インフラ投資・再開発関連),産業政策(エネルギー政策)が見込まれる。米国経済活性化は産業界・市場の利害にもかなうもので,議会共和党とのやりとりを経ながら,実施されよう。

B:「トランプ氏の岩盤支持層」第一主義

 トランプ陣営は今回選挙の勝因を十分踏まえて,2年後に控える中間選挙(前職オバマ民主党が,ティー・パーティー運動等に苦杯をなめた)への戦略を展望していることは推定できる。

 その場合,予備選・本選を通じ,(トランプ氏から見れば)様々なネガティブ・キャンペーンにも拘わらず支持を撤回しなかった層(特に中西部ラストベルトで急増した,言わばトランプ・デモクラット)からの支持の岩盤化が必要であろう。そこで(本来トランプ氏本人やそのファミリーは大富豪で,経済面での既得権者であるにも拘わらず)メンタリティーとしては,反エスタブリッシュメントで,一般国民(古くから米国で生活し働く人々,ニクソン大統領によるサイレント・マジョリティ)のマインドを強力に持続的に代弁していくという,立ち位置が基本戦略となろう。

 従って今後も選挙戦の延長モードとして,トランプ砲(ツイッター等SNSの活用),内外を翻弄するメッセージやサプライズ・ディールが常用されよう。中長期的には,こうした岩盤支持層,草の根ポピュリズムを吸引し動員する理念として,これまでとはかなり異なる「ニュー(ネオ)アメリカニズム」が考えられる。即ち(就任演説で述べられた)Make America Strong Again, Wealthy Again , Proud Again, Safe Again, であり,We will shine for everyone to follow の積極的発信であろう。

C:「交渉(ディール)」第一主義

 トランプ大統領は職業政治家・ワシントンでの諸キャリアこそ無いが,不動産王として経営・ビジネスに大成功し,危機(子会社等の破綻危機等)をも切り抜けた,タフなネゴシエーターである。すでに就任前,トランスナショナルな展開を行うグローバル大企業「自動車産業」に的を絞り,メキシコでの工場建設や投資を撤回,ないしは米国での雇用・投資の増大を約束させた。その経過を見ると,〔ショック〕⇒〔ディール〔再交渉・取引〕⇒成果獲得の方程式といえよう。つまりトランプ氏の手法には,(a)過激な問題提起・見直しを宣言し,(b)相手との交渉(あるいは再検討)の場に持ち込み,(c)成果を挙げていく(成果を挙げるまで攻撃する)というパターンが色濃く見られる。これは閣僚人事においても(論功行賞的人事は別として)その分野に精通したタフな「交渉人」(相手と強力に交渉できる,或は相手や当該分野を最も熟知しているプロ)を主要エリアに貼り付ける,(ただし最終ディールは大統領が行うので,その観点から最適・忠誠度が高いことが必要)ことからも窺われる。そして「交渉」の優先順位としては,

  • ・基本的に果実(リターン)が得られなければ,関心度・優先順位は低い
  • ・米国の利害に直接関係しなければ,(同盟国にとって重要でも)優先順位は高くない
  • ・「マルチ〔多国間〕」より「バイ(二国間)」でのトランズアクションに注力する
  • ・これまで米国が世界を牽引してきた理念・ソフトパワーによるリーダーシップは見直される

 さらに,これまでのグローバルスタンダードやルール(仮に米国が主導し,コミットしてきたものでも)であっても,「米国第一主義」に抵触すると考えられるものは,再検討・交渉することを辞さない,また「理念」で相手に対峙するというより,相手の譲れない部分を考慮しつつ,ゼロ・サムであった状況を強引に打開・修正させることで果実を得るという「交渉本位主義」に他ならない。

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