世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
「北方四島」大いなる前進:「大義を四海に布く」
(熊本学園大学 名誉教授)
2017.01.09
「北方四島」問題は安倍晋三総理の強いリーダーシップによって大きく前進した。日本のインテリには時の宰相の仕事を褒める,評価するのはインテリの沽券にかかわるという狭量な精神がどうしようもなく宿っている。この狭隘なる精神はマスメディアに頻繁に登場する,言うところの「有識者」に顕著である。日本のマスメディア,「有識者」は,時代遅れの「戦後民主主義」を唯一の知的財産とし,自らの頭で日本近代史を正当に検証,評価するという知的努力を怠り続けている。このような知的怠慢が許されるのは,日本がまさに「極東」に位置し,宗教,難民という21世紀の政治的難事から身に危険を感じることなく,安逸をむさぼることができると思い込んでいるからだろう。しかし,すでに時代はグローバリゼーションが不可逆的に深化し,海外に居住する,在留する日本人は何百万人を数え,日本人の生命,財産の安全が,国外で保障されているわけでは決してない。海外で悲惨な事態に巻き込まれた,巻き込まれる日本人は後を絶たない。日本列島は「極東」にあっても,日本人もグローバリゼーションのまっただ中で「極東」の安全地帯から遠い異国で,積極果敢に生きて行かざるをえないのが21世紀の現実である。
欧米先進国はすでに厳しい政治的現実を反映して「多党化時代」に入っている。日本でのみ自民一強,野党多弱という「ガラパゴス政界」が保持されている。この現実は自民党が立派であるというより,野党が信頼に足る政治的責任を果たしえていないからである。
露日間には領土問題は存在しないというロシアの公式的立場,「北方四島」は我が国固有の領土であるという日本の公式的立場はすでに膠着して幾十年。二島返還すら覚束ない現状を誰しも知りながら,日露交渉は領土問題を置き去りにしたとか,一歩も進まなかったとかいうマスメディア,野党の評価は国際政治,国際地政学に無知か,あるいは無邪気か,はたまた党派的利益からであろう。会談で「領土」という言葉が出ようが,出まいが両首脳はもちろん,両国政府交渉団の脳裡に「領土問題」が瞬時たりとも離れることはありえない。「肯定的否定」という修辞法がある。野党は安倍氏のこれまでの努力を多としそれではまだ十分でないという,「肯定的否定」の論陣が張れないのか? 何でも反対でなく,新たな提案をするというのが,野党新党首の政治的スタンスではなかったのか? 野党が「政治小児病」を克服しない限り,二大政党,もしくは複数政党が切磋琢磨するという政治の健全さ,活力は期待できず,残念ながら,日本の政治の貧困は続くだろう。
幼時を「北方四島」で過ごし,敗戦とともに強制退去させられ,今や高齢となった旧島民の望郷の念や切なるものがある。安倍総理からプーチン大統領に渡された旧島民の手紙の内容は以下のようである。「生きているうちに故郷に戻りたい。島で朝を迎えたい。何時でも墓参りをしたい。自由に島に行きたい。……私たちの故郷であり,そしてロシア人の島民の故郷でもある4つの島で合流する日露両国新時代を象徴する希望の道を築いて下さい」。「四島返還を」とは書かれていない。原文には書かれていたかもしれない,政府が手を加えたかもしれない,と猜疑心を持つものは持てばよい。「切なるものの声にこそ真実は宿る」のである。島民の声はまさに,「4つの島で合流する日露両国新時代」である。賢者の言うところの「共同統治」案である。「共同統治」は法的に困難である。とてつもない煩雑な技術的法的手続きが必要となる。「北方四島」近海は日米,露,中の軍事的要衝である等など。さかしらな心配,懸念を百ほど並べ立てるのが「有識者」である。大きな信頼,友情,共同利益が確認されれば困難を妨げる「北方四島」に壁はない。壁は常に外部にではなく狭量な精神の内側にある。
世界には今なお何世紀にもわたる戦争の後遺症とも,負の遺産ともいうべき「領土問題」が数多くある。「カリーニングラード」,「フォークランド諸島」,「チベット・内モンゴル」等等など,最たるものはヨーロッパからのアメリカへの「不法移民」であろう。トランプが真っ先にアメリカを出て行かなければならない。21世紀は「領土問題」に新機軸を,新しい理念を提示しなければならない。
勝海舟がこの世の中に怖い者を二人見たと言った。西郷南洲と横井小楠である。小楠が甥の横井左平太のアメリカ留学の送別に贈った有名な漢詩がある。「堯舜孔子の道を明らかにし,西洋器械の術を尽くす。何ぞ富国に止まらん,何ぞ強兵に止まらん,大義を四海に布かんのみ」。
日本は経済力,国防力を強化し,しかもなおかつ,世界に「大義」(Great Justice)を訴えなければならない。「大義」がなければ,経済力,国防力は衰退する。経済力,国防力が弱ければ世界に「大義」を布く力はない。
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