世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.624

海外子会社の多様化する従業員のマネジメントから学ぶ

岸本寿生

(富山大学経済学部 教授)

2016.04.18

 グローバル時代の経営において,ダイバーシティ・マネジメントは一般用語となった。しかし,日系企業にとって,従業員のダイバーシティによるシナジー効果が得られているか,もしくはそのためのマネジメントは,今なお継続する課題である。

 ダイバーシティ・マネジメントは,性別をはじめ,国籍,民族(人種),年齢,宗教…など人のもつ多様性を受け入れて,企業経営をはじめとする組織でその効果を享受するものと解釈できよう。本コラムでは,国籍の多様性について考察をしてみる。

 9年前に,ドバイ(UAE)にある,従業員が30数名の日系の現地法人を訪問した。その会社では,トップの日本人のもとに9カ国の国籍の従業員がいることに驚きを覚えた。UAEの現地法人は必ずUAEの人を雇用しなければならない規則があるので,パブリック・リレーションを担当する1名を雇用している。但し,勤務は非常勤であった。そのほか,パキスタンの8名をはじめインド,バングラディシュ,フィリピン,タイなどの国籍の人を雇用していた。従業員のマネジメントは日本人一人でも人数的には問題ないとのことであったが,出自国によって特徴が異なり,担当の割り振りでシナジー効果を生んでいるという。例えば,パキスタン系の人は金融システムを理解する能力が高く,資金運用等で能力を発揮するという。他方,アジア系の人は事務処理などスタッフとして役に立っており,少数でも十分な効果が得られるとのことであった。まさに,ダイバーシティ・マネジメントの一面を見たような気がした。

 また,最近,マレーシアの会社を訪問する機会を得た。マレーシアはマレー系,中国系,インド系の多民族国家なので,現地では特にダイバーシティを意識することはないが,これまで国際的にはブミプトラ政策などマレー系の優遇政策が非難され見直されてきている。訪問した会社の雇用状況は,予想以上に多様化しており,マレーシアの各民族だけではなく,インドネシア,ベトナム,ミャンマー,カンボジア,ネパール,バングラディシュ,スリランカから採用しているという。言語や習慣をはじめ出身地域の文化レベルが異なるので,従業員管理には想定外のことが起こるという。例えば,僻地からきた従業員には,トイレや風呂の使い方,ゴミの捨て方,食事の仕方などを採用時の社員教育をする必要があり,それも図示・図解で教えなければならないという。また,生活習慣の違いから争い事が起こることもあり,通訳を通じて仲裁しなければならいこともあるという。宗教も異なるので,それぞれの宗教の慣習にあわせて休日や休憩時間を調整し,また,それぞれの宗教施設を敷地内に設置することも肝要であるという。

 これまで日系製造業による海外進出の理由の一つとして,現地の豊富で低賃金である労働力の獲得が挙げられる。ところが現地の経済成長と共に,オペレーターは現地だけではなく更に周辺地域から採用する状況になり,より一層従業員管理が複雑になってきている。

 日本国内では,女性活躍推進法や障がい者雇用促進法などダイバーシティ・マネジメントに関する法整備が進んできているが,外国人雇用については端緒がひらかれたばかりである。また,急増する外国人観光客への対応も十分とはいえない。日系企業の現地法人では,すでに多くの国や地域からの従業員を採用しており,その経験を日本国内にフィードバックすることにより,ダイバーシティ・マネジメントが推進されることを期待する。

関連記事

岸本寿生

国際ビジネス

最新のコラム