世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.623

農業革命,産業革命に次ぐAI革命が始まっている

武者陵司

(株式会社 武者リサーチ 代表)

2016.04.11

 チェスに続き碁でも,人工知能がチャンピオンに勝利した。自動翻訳,自動運転と人間の職能領域を次々にロボットが蚕食していく。人間は機械にかなわないとの感慨は深まるばかりである。

 囲碁を指せる人工知能プログラム「アルファ碁」が,史上最強とうたわれる韓国のイ・セドル棋士と対戦し,5番勝負戦に4勝1敗で勝利したことは特に衝撃的であった。チェスでIBMのコンピュータが初めて世界チャンピオンを破ったのは20年前1997年であったが,指し手の数がチェスの10の100乗倍あると言われる将棋においては今ようやく人工知能とチャンピオンとの力が拮抗するところまで来ている,という状況,まして将棋と比べても圧倒的に選択肢が多い複雑なゲームである碁においてはトップの人間を人工知能が凌駕するにはあと10年はかかるだろうと予想されていた。そうした中での碁における人工知能の勝利は,人工知能の成長の驚異的スピードを示すものとして大きな衝撃を与えている。この先に,人工知能がまるで神のように賢くなれば,彼らは使われるだけの存在でいるのだろうか。人間が機械に支配される日が来るのだろうかという不安が高まっている。

 しかし考えてみれば機械が人間の能力を凌駕することは何も新しいことではない。スポーツにおいては人間の筋力を上回る機械の出現ははるか昔であったし,自動車,飛行機,ロケットは人間の行動範囲を著しく広げてくれた。頭脳の知的働きを機械が凌駕したとて,なにも恐れることはないのではないか。

 機械が決定的に人間に比べて欠けているのは,欲求,需要である。そして価値は需要家が決めるものだから,欲求を持たない機械は価値を測るすべはなく,価値創造はできない。つまり人工知能であろうとロボットであろうと機械はあくまでも人間の僕でしかないのである。

 人類は農業革命,産業革命と過去2回の構造変革を経験し生活水準を飛躍的に高めてきたが,今新たな革命が始まろうとしていると考えられるのではないだろうか。農業革命は土地の生産性を飛躍的に高め,食料の生産量を大きく増加させ,胃袋を満たし人類から飢餓の恐怖を消し去った。この時代の社会は最も重要な富の源泉である土地の支配権を基礎として構築されていた。古代専制君主も封建制も,土地支配にかかわる統治システムであった。次いで起こった産業革命は機械の発明により,資本の生産性を著しく高め多様な財の生産量を著しく増加させ,人間の衣食住全般にわたる生活充足度を大いに向上させた。この時代の富の源泉は資本であり,資本の所有をめぐって社会関係が組み立てられた。

 さて今は頭脳労働を肩代わりするロボット,人工頭脳の浸透により,新たな時代が始まろうとしているのかもしれない。頭脳労働の機械化は,さらに劇的な価値創造を可能にするだろう。その場合人工知能,ロボットを総動員して価値に結び付ける知恵こそが,富の源泉となるのではないか。そこで創造される価値とは,とてつもない人間生活の「快適さ」である。機械を駆使していかに人々が高い価格を付与する「快適さ」を作り出すか,それは知恵そのものである。ここに歴史的ビジネスチャンスが存在していると考えられる。そしてこの時代の価値の源泉は,かつてのような土地でも資本でもなく,知恵である。米国で時代の最先端を切り開いているマイクロソフト,アップル,グーグル,フェイスブック,アマゾンなどすべては徒手空拳の若者が知恵のみでうち建てた企業であった。土地本位制から資本本位制へ,そして知恵本位制へ,この流れを理解しそれに乗ることが決定的に大切だ。

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