世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
デジタル通貨・暗号通貨・電子マネーは何が違うか
(東洋大学経済学部国際経済学科 教授)
2026.01.12
様々な形の「通貨」
デジタル通貨(CBDC)はバハマ,ナイジェリア,ジャマイカですでに発行されており,100カ国以上の国・地域で開発が進んでいる。デジタルユーロは2029年をめどに発行される予定となっており,2030年代はデジタル通貨の時代になるかもしれない。
現金や銀行預金の他にも,様々な道具が「通貨」として利用されている。近年は,暗号通貨や電子マネーの利用が広がりつつある。これらはどのように整理すべきだろうか。
発行主体で分類すると,政府が発行するデジタル通貨,公的または民間の団体・企業が発行する暗号通貨・電子マネーに分けられる。暗号通貨の代表はビットコインであり,中央集権的な管理者を持たないことを特徴としているが,近年発行が増えているステーブルコインは中央集権的な管理者を持つことから,電子マネーとの類似性が増しており,同じグループとして考えてもよい。
信用度と利便性
通貨が利用されるための最も重要な要因は信用度である。デジタル通貨は法定通貨であり,政府の存在そのものが信用の裏付けになっている。暗号通貨や電子マネーは発行者の信用に基づいて取引・流通している。先進国では政府の方が信用度が高い(途上国では市民による政府への信用度が低く,電子マネーやステーブルコインの利用が増えるケースもある)。
決済の完了を法的に保証することをファイナルというが,デジタル通貨は現金や銀行預金と同様に法定通貨であるため,受け取った時点でファイナルが確定する。電子マネーやステーブルコインのファイナルは発行者の利用規約によって定義される。ビットコインには利用規約がないため,ファイナルは慣習によって定められている。いずれにせよ,各国で法的な定義を追加で決めなければビジネス上安心して使うことができないが,各国による法整備の差が国際的な利用の障害となる。
利便性は利用範囲の広さと他サービスとの連携が関係している。デジタル通貨は基本的には発行国内での利用に限られ,現金と同じように支払いの道具としてのみ利用できる。電子マネーは発行者が決めた利用範囲でしか使えず,一般的には現金よりも利用範囲は狭い。しかし,購買データに基づくプロモーションを付加しやすく,金融サービスなどの他分野との連携も進めやすい。国際利用できないものが多いが,国際展開しているサービスもある。暗号通貨は現時点では決済に利用できる範囲は広くないが,もともとインターネット上で展開されているため,簡単に国境を越えられる。サービスは決済分野に集中しているが,既存の決済サービスが抱える問題を解決する可能性を秘めている。問題とは手数料と遅延である。例えば,クレジットカード決済を受け入れる店舗にとっては,年々引き上げられる手数料や売上金受け取りまでの期間の長さがビジネス上の問題になっている。ステーブルコインは手数料の引き下げと受け取り期間短縮を実現する手段として期待されており,金融機関が発行するケースも増えてきている。
信用度と利便性の面から,デジタル通貨,暗号通貨,電子マネーは異なる性質を持っていることが分かる。
通貨の競争時代
なぜ様々な通貨が発行されるのか。その答えは,通貨発行益(シニョレッジ)とユーザーの囲い込みにある。通貨発行益は,通貨の販売額と発行コストの差から生まれる。1コイン=1円とするものを発行すれば,販売額は3つの通貨とも同じになる。デジタル通貨の発行コストは膨大であり,安全なシステムの開発と維持,国民への説明や教育などのコストがかかる。電子マネーの発行にもコストがかかるが,利用範囲が自社のユーザーに限られているため,デジタル通貨に比べて圧倒的にコストが低い。暗号通貨のコストは様々だが,イーサリアムのERC2。0に準拠したトークンであれば,発行コストはほぼゼロだといえる。ステーブルコインは発行額相当の準備(ドルなどのリザーブ)を保有しているとされるが,おそらく十分な準備はないものと思われる。通貨の発行は非常に収益性の高いビジネスなのである。
ユーザーを自社のエコシステムに縛り付けることで,データの収集やバンドルサービスの販売などからも多くの利益を得られる。電子マネーはチャージされた額の一定額が利用されずにとどまるため,この分はユーザーが企業に対して無利子で貸付している形になり,この面からも利益を得られる。
現在のところ,デジタル通貨はほとんど利用されておらず,実証実験の利用実績も低調である。これはデジタル通貨の魅力や競争力が低いということを意味しており,信用度だけでは十分な利用を促すことができないことを意味している。現金からデジタル通貨に乗り換える理由(メリット)は何か,政府や中央銀行は説明する必要があるだろう。
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