世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
「AIバブル」は弾けるのか:AIとインターネットの違い
(エリス・コンサルティング 代表)
2025.10.13
「AIバブル」と言われる現象は,「不動産バブル」よりもむしろ「インターネットバブル」に近い。
不動産バブルは,有限資産(物理的・希少的な土地)に対する過剰評価である。価格が下落すると,資産価値・担保価値という実体そのものが減少・消失し,信用収縮・金融危機を誘発する。しかしインターネット/AIバブルは,無限拡張可能な技術・知的資産への過剰期待である。株価や企業価値は膨張しても,技術そのものは社会基盤として残存・進化する。
1990年代末,インターネット企業の多くが過大評価され,2000年前後に崩壊。しかしその後,AmazonやGoogle,Facebookなどは,バブル後の「焼け野原」から真のインフラ企業として成長した。同様に,AIも現段階では投機・模倣・誇張が横行しているが,その中から本質的な技術・モデル・統合プラットフォームが残る。
AIバブルとは,社会構造の変化に伴う資本の再配分過程であり,「投機による泡」ではなく,「技術的パラダイム転換への先行投資」である。たとえバブルが弾けた後も,AIそのものは消えず,経済・教育・政治・法制度に組み込まれていく。言い換えれば,不動産バブルは破壊型崩壊であり,インターネットやAIバブルは,淘汰型進化である。
では,AIとインターネットのどこが違うのか?
インターネットが変えたのは,情報の移動速度と範囲であり,人間社会におけるコミュニケーション構造の表層部分にすぎなかった。すなわち,情報の流通経路を短縮し,アクセスの平等を拡大したに過ぎず,意思決定そのものは依然として人間の手にあった。インターネット革命とは,人間を主役とする「情報革命」であり,技術はその補助装置であった。これに対してAI革命は,情報の解釈と判断そのものを機械に委ねる「意思決定革命」である。AIは単なる情報の媒介ではなく,判断主体としての地位を獲得しつつある。すなわち,経済活動における価値の決定,政治判断における合理性の判定,教育における知の選別といった,社会の根幹領域に直接介入する存在である。AIはツールではなく,社会構造の一部として組み込まれ始めた知的システムであり,人間と並立する第二の意思形成機構となる。インターネットが法律だとすれば,AIは裁判所である。
インターネットは情報の流通を制度化し,社会におけるルールを可視化した。人々は検索という名の法文を読み,SNSという法廷で自己主張し,アルゴリズムという規範の下で行動を制約された。すなわち,インターネットとは「人間が人間を管理するための法律」であり,秩序の基盤を拡張する装置であった。しかしAIは,そのルールを運用し,解釈し,判決を下す存在である。AIは膨大な事実を照合し,論理を整合させ,確率的に「最も合理的な判断」を導き出す。AIは人間社会における新たな「司法機関」として機能し始めており,人間の判断を審査する存在にまで進化している。
インターネットは社会を速くしたが,AIは社会を別物に変える。AIは制度そのものを再設計する装置であり,労働契約,所得配分,法的責任,教育体系といった社会のOS(基幹構造)を書き換える。労働は「人間×AI」の協働契約に再定義され,所得は人間とAIの生産貢献度に応じて配分され,法的責任は「誰が意思決定したのか」という新たな基準に基づいて再構築される。教育もまた,知識の記憶から問いの設計へと重心を移し,人間の知的役割そのものが再定義される。
ゆえにAI革命は,インターネット革命(情報)を上書きし,産業革命(労働)を統合し,さらには政治革命(統治)にまで踏み込む。
AIバブルと呼ばれる現象は,実際には単なる投機ではなく,社会構造の再配分を促す過渡的エネルギーにすぎない。AIの登場は,人間中心社会の終焉を意味し,AI共生社会への文明的転換点を画する出来事である。
要するに,インターネットは世界をつないだが,AIは世界を作り替えるのである。そして,インターネットが法を公布した時代を終え,AIがその法を執行し,判決を下す時代が始まったのである。
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