世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ePDCA方式で環境をつくり成果を引き出せ!:大学などの持続的発展方法の提案
(東北大学大学院生命科学研究科 准教授)
2025.04.21
成果を出したいとき,多くの組織は「成果そのもの」を追いかける。けれども,それが本当に持続的な成果につながるだろうか?本稿では,成果を生み出す「環境」にこそ焦点を当てた新たなマネジメント手法,ePDCA方式(Environment-Driven PDCA)を紹介する。本方式では以下を実施する。
- 1. どのような成果を得たいか決める(成果設定)。
- 2. その成果を得るためには,どのような環境群が必要か見定める(環境設定)。
- 3. 各環境を実現するためのアクションプランを立てる(P)。
- 4. 各環境の実現状況をどうやって測定するかKPI(Key Performance Indicator; 重要業績評価指標)を設定する。
- 5. アクションプランを実施する(D)。
- 6. 実現状況を測定する(C)。
- 7. アクションプランとKPI設定を見直す(A)。
- 8. 必要に応じて環境設定を見直す。
【成果ではなく環境実現を追う仕組み】
ePDCA方式の最大の特徴は,成果を直接的に追い求めるのではなく,成果が得られるであろう環境を追い求めるところにある。このシステムを動かしPDCAサイクルをしばらく回すと,運営・経営に関する様々なノウハウが蓄積することになる。つまり,どのような環境を設定したら良いか?どのようなアクションプランにどのような効果があるか?実現具合をどのように測定・評価したら良いか?そういったノウハウが蓄積する。そして,成果が生まれる環境の整備が着々と進み,実際に望む成果が得られるようになっていく。
【ePDCA方式では現場理解が深まる】
ePDCA方式を採用すると,環境を整えることが運営者・経営者の責任の中心になる。環境が適切なら成果は自然と出てくる。成果がついてこない場合には,経営陣はなぜ成果が出ないのか,どのような環境をどのようなアクションプランとKPIで目指そうとしたか,どのような改善を図るかについて説明を求められることになる。成果が出る環境を作るという形で明瞭な形で責任を追う運営者・経営者は,現場に出向いて現場の問題・課題,それらが生じる理由を深く知ろうとするようになるだろう。
【ePDCA方式が最も効果を発揮する現場】
ePDCA方式は,長期的な成果を求める様々な分野,クリエイティビティが重要な大学,企業などの研究開発部門,さらにはスポーツチームの育成システムなどに幅広く活用できるはずである。しかし現在最もこの方法を必要としているのは,間違いなく日本の大学である。この20年間,行政が大学改革を押し進めようとするほどに,大学は論文数などの"結果的な指標値"の向上を求められ,「目先の成果」を追いかけることに駆り立てられ,疲弊し,教育力・研究力を落としてきた。
【大学は成長軌道に乗っているか?】
直接的に目先の成果を追うことの怖さは,成功例と失敗例が積み上がるだけで,次の施策に活かせる『体系的な知見』が蓄積されにくいところにある。大学の本質的な教育力・研究力を向上させるノウハウが大学に蓄積してきただろうか?現場の緒問題はどれほど分析されてきただろうか?たとえば非意欲的な学生が多い問題,学位審査の形骸化(学位の質保証の問題),ワンオペPI問題,人材が分断されてしまう利害非共有問題などである。こうした実態に目を向けず,行政の求める指標値を満たすこと自体が目的化してしまえば,行動の原理は「お上対策」となり,現場への深い理解は疎かになってしまう。これでは,大学の持続的・長期的な成長は,到底望むことができない。
【行政は大学に環境実現を求めよ】
イノベーションが起きにくく,経済が停滞している日本の今の状況を変えるにはePDCA方式を大学に導入することだ。行政は大きく変わるべきである。大学にアウトプットを求めるのは良いが,必ず同時にアウトプットを最大化するための環境設定と,そのためのPDCAについてのプラン策定を大学に求めるのだ。そうすれば大学は表面的な指標値向上(指標値ハック)ではなく,アウトプットが出やすい環境実現に注力でき,現場理解に基づく持続的発展を始めることが確実となる。一方で大学は,行政の動きをまたず自律的にこれを実行に移すべきである。成果実現のための環境実現を追求するのだ。無駄な指標値向上から意味のある環境実現へと転換すれば職員も元気になるだろう。
【筆者によるRE-UP提案】
筆者は,大学用のアウトプット最大化のための環境設定とアクションプランのパッケージ,RE-UP提案(Re-engineering of universities for progress)を作成した。本提案はePDCA方式を大学で実施する具体案であり,
- ・意欲が向上・維持されやすい環境
- ・学生の意欲が高まる環境
- ・研究アイデアを得やすい環境
などの7つの環境と,その実現のための6つのアクションプラン,設定KPI群が含まれている。特に次期「国際卓越研究大学」採択を目指す大学にとって,本方式の導入は有益であると考えられる。関心のある大学関係諸氏からのご連絡をお待ちしている。なおRE-UP提案は,長年大学で教育研究に従事しながら大学現場の問題,教育にまつわる問題を観察してきた筆者の分析に基づく。こちらについては拙著「日本の研究力低迷の原因と解決方法」「大学で学べる科学的素養」をご参照いただきたい。
関連記事
大坪嘉行
-
[No.3503 2024.07.29 ]
-
[No.2876 2023.03.13 ]
最新のコラム
-
New! [No.3804 2025.04.21 ]
-
New! [No.3803 2025.04.21 ]
-
New! [No.3802 2025.04.21 ]
-
New! [No.3801 2025.04.21 ]
-
New! [No.3800 2025.04.21 ]
世界経済評論IMPACT 記事検索
おすすめの本〈 広告 〉
-
ASEAN経済新時代 高まる中国の影響力 本体価格:3,500円+税 2025年1月
文眞堂 -
ビジネスとは何だろうか【改訂版】 本体価格:2,500円+税 2025年3月
文眞堂 -
国民の安全を確保する政府の役割はどの程度果たされているか:規制によるリスク削減量の測定―航空の事例― 本体価格:3,500円+税 2025年1月
文眞堂 -
カーボンニュートラルの夢と現実:欧州グリーンディールの成果と課題 本体価格:3,000円+税 2025年1月
文眞堂 -
日本企業論【第2版】:企業社会の経営学 本体価格:2,700円+税 2025年3月
文眞堂 -
百貨店における取引慣行の実態分析:戦前期の返品制と委託型出店契約 本体価格:3,400円+税 2025年3月
文眞堂 -
文化×地域×デザインが社会を元気にする 本体価格:2,500円+税 2025年3月
文眞堂