世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
就任1ヵ月,トランプ2.0をどう見るか
(国際貿易投資研究所 客員研究員)
2025.02.17
「見事」なスタートダッシュ
トランプの2回目の大統領就任からほぼ1ヵ月。予想を上回るような,強烈なトランプ旋風が吹き荒れている。
トランプ2.0(第2期政権)は,就任式の後,大量の大統領覚書への公開署名セレモニーという派手な猛ダッシュで正式に幕を開けた。ただし,実際には,昨年11月にトランプ当選が決まった日から,世界中の注目はレイムダック化が完成したバイデンではなく,既にトランプの方に集中し,世界各国政府も企業もトランプを向いて仕事を始めた。その意味で,実際の開幕は少なくとも当選日にまで遡ると言えるだろう。
以降,就任前にもかかわらず,トランプのSNSの一投ごとに世界は揺れ,ガザ停戦に向けた交渉には特使が参加した。政権移行チームも当然仕事を開始,その結果が,就任式における大量の大統領覚書の準備完了である。ある意味,現職大統領の2期目のようなものだからとも言えようが,4年間のインターバル期間中はあくまで在野であり,政策内容はともかく,少なくとも就任までの準備の良さ,政権移行の空白防止面においては,「見事」と言うべきかもしれない。
大幅追加関税ラッシュの実現性
「Tariff Man」を自称するトランプによる第2期政権は,早急かつ激しい追加関税攻勢に出ている。政権が最初に手を付けたのが,合成麻薬と不法移民の流入問題である。対象は流入ルートであるカナダ,メキシコ,中国。ディールのための材料として追加関税が選択された。根拠法としては国際緊急経済権限法(IEEPA)が使用された。ベッセント財務長官が説明したとおり,トランプ政権は,通商問題とは関係なく追加関税をディールのツールとしても使うということである。経済面で悪影響が生じるが,事案の軽重からして意に介さずということであろう。対カナダ,メキシコに関しては,両国が緊急措置を取ったとして追加関税賦課開始を3月4日まで延期している。
ついで,2月10日,通商拡大法232条に基づき第1期トランプ政権から課されている鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税に関し,大統領布告を発表した。これまで特定国や製品などに付与されていた追加関税適用除外制度を廃止し,全貿易相手国からの鉄鋼・アルミ製品輸入に対して25%の追加関税を課し直す。鉄鋼の25%は現行通りだが,アルミは10%からの引き上げとなる。各国は,さっそく新たな適用除外を求めて,トランプ政権との硬軟織り交ぜた「ディール」に入る模様である。
上記いずれについても,当初の大統領覚書では,管轄の商務長官に4月1日までに調査報告の提出を命じていた。プロセスとしては,報告提出の後に関税賦課が来ると予想されたところ,トランプは一気に前倒しした。本稿執筆の2月13日時点ではまだではあるが,この後まもなく,輸入相手国にその国が課している関税率と同じ関税率を課す相互関税についての発表があると見られている。そのほか,通商法301条(不公正貿易)に関する対中追加関税などについても,前倒しでの何らかの動きが予想される。
追加関税を筆頭に不法移民送還なども含めて,トランプの政策のうち影響の数値化が可能なものにはインフレ圧力を増すものが多いが,半面,数値化しにくい政策(各種規制緩和による供給力拡大,政府部門リストラ等々)にはインフレを緩和するものもある。今後の追加関税発動の加速具合は国内経済情勢を眺めながらの匙加減調整となろうが,さらなる大幅追加関税ラッシュは脅しに過ぎずインフレ悪化で実際には賦課できない,などとは言い切れない。
より鮮明になったトランプ外交
外交面においても,トランプによる刺激的な発言が相次いでいる。グリーンランド,パナマ運河,ガザなど,米国の領有すらチラつかせるようなトランプの強引さは第1期を大きく上回る。ルビオ国務長官が火消し役に回るほどである。
トランプ自身の外交方針を纏めれば,自国の利益・安全保障を最重要視し,そこからの逆算で,自国の庭(北米・中米)の安全保障・支配確保,自国にまで波及しうる潜在的脅威の排除(対中姿勢)が重要となり,これらに(かなり狭義で見て)費用対効果で貢献しないのなら手を引いていくというものとなろう。この方針は第1期も同様ではあったが,第2期においてはさらに鮮明となっている。通商保護主義や国際機関からの離脱なども,結局はこの文脈に収まる。
共和党・トランプ政権内はこの方針で一枚岩ということではなく,より同盟重視・国際主義的なルビオにとっては,こうしたトランプ自身の方針とは齟齬があろうが,トランプ中心が確立された今の共和党においては,ルビオが寄せていくしかない。
閣僚承認採決で意外と賛成する民主党議員
そのルビオ長官の上院での承認採決は賛成99,反対0,元来は外交に関して保守強硬派に属していたはずのルビオを,民主党も含めて反対ゼロで承認した。そもそもルビオは有力な上院議員であり,民主党議員にとっても,トランプに比べれば遥かにオーソドックスな元同僚を閣内に置くことは,むしろ安心材料であったということかもしれない。
同様に,追加関税などのトランプ経済政策を支えるベセット財務長官も,上院での承認採決の賛成は68。原油やガスを「掘って掘って掘りまくる」政策を支えるバーガム内務長官も,賛成79。いずれの閣僚にも多くの民主党議員が賛成票を投じている。ちなみに,第1期政権時のティラーソン国務長官はトランプのお目付け役の「大人たち」と言われたが上院での承認賛成は56,ムニューシン財務長官は53,ジンキ内務長官は68であり,いずれのポストでも第2期の方が多くの民主党議員票を集めている。
逆に第2期の方が票の少ない候補も多いものの,民主党側と明らかに激しく対立する案件を抱えているこれら長官人事に対しては,意外に民主党議員が賛意を示した印象である。
議会運営における離反と取り込みに変化はあるか
民主党側としても,大統領選挙での総得票数での敗北,世論調査での民主党好感度の大幅低下などから,このままではいけないとの危機意識が生まれているものと思われる。しかし,それでは民主党がどの方向に向かうのかは,不透明になっているように見える。
そもそも,民主党も共和党も内部は一枚岩ではない。ただし,共和党ではトランピズム中心が確立されたのに対して,民主党は,中道の旧主流派(国際主義的/ビジネス寄り),伝統左派(孤立主義的/労働者寄り),新興左派(アイデンティティ・ポリティクス寄り),いずれが中心となるのかが見えない。これらを足して3で割ろうとした結果がハリス敗退と好感度低下であり,既往路線の延長上には復活が見えていないのではないか。
大統領権限が比較的大きく,したがってトランプが突っ走りやすい通商・外交がまずは先行しているが,これからは減税延長のような議会で法案を通す必要のある内政案件への取り組みが本格化していく。党議拘束のない米国では,個別法案への賛否は各議員の利害による是々非々である。両党議員は大枠としては自党の方針に沿いながらも,選出州の利害に合わせて時に反対党に賛成票を投じる。両院とも共和党が多数を占めるとはいえ議席数は接近しており,自党からの離反や反対党からの取込みが引き続き鍵となる。
トランプ2.0でも,党派分断と党内離反前提の綱渡りでの議会運営がメイン・シナリオとなろう。しかしそこからのリスク・シナリオとしては,自信を深めているトランプが離反しようとする共和党議員を如何に従わせていくのか,あるいは,迷える民主党の議員が閣僚承認で垣間見えたように意外とトランプ共和党法案に賛成票を投じるのか。これらの点が,議会運営を左右していきそうである。
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