世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3495
世界経済評論IMPACT No.3495

日本は「40年に石炭火力をたたむ」と宣言すべき

橘川武郎

(国際大学 学長)

2024.07.22

 日本とドイツを比較すると,2023年の電源構成に占める石炭火力の比率は大差がなく,ドイツが26%,日本が29%であった。しかし,石炭火力をめぐる両国への国際的評価は,対照的と言っていいほどの違いがある。ドイツは,さまざまな国際会議で,石炭火力をたたむ「正義の味方」のように振る舞っている。一方日本は,石炭火力にしがみつく「悪者」であるかのような扱いを受け,毎年のように,不名誉な「化石賞」を与えられる羽目になっている。

 同じように石炭火力を使っているのにもかかわらず,日本とドイツで,なぜこれほどまでに評価の違いが生じるのか。その理由はたった一つ,ドイツが石炭火力を廃止する時期を明示しているのに対して,日本がそれを明示していないからである。

 ドイツは,アンゲラ・メルケル政権時代には,38年に国内の石炭火力を運転停止するとしていた。その後,緑の党が連立与党に加わった現在のオラフ・ショルツ政権では,石炭火力の廃止時期を30年に前倒ししたが,ウクライナ戦争開始後にドイツが石炭火力への依存度を維持している実情を踏まえれば,廃止時期は38年に戻される可能性がある。

 それでは,日本は,いつ石炭火力をたたむことができるだろうか。日本政府は,2020年代後半には,石炭火力に20%程度のアンモニアを混焼する方針である。また,日本最大で世界有数の火力発電会社であるJERAは,22年5月に発表した「2035年に向けた新たなビジョンと環境目標」のなかで,石炭火力へのアンモニア50%以上の高混焼について,30年代前半に商用運転を開始すると宣言した。アンモニア混焼率が50%を超え100%のアンモニア専焼に近づくと,もはや石炭火力とは呼べなくなり,ガス火力とみなすべき状態に達する。この時点が,日本が石炭火力をたたむタイミングとなる。それは,2040年ごろになると言って問題なかろう。

 この点は,別の観点からも,裏づけることができる。22〜23年に日本では,最新鋭の超々臨界圧石炭火力が次々と運転を開始した。JERAの武豊5号機(愛知県,107kW)と横須賀1・2号機(神奈川県,いずれも65万kW),中国電力の三隅2号機(島根県,100万kW),神戸製鋼所の神戸4号機(兵庫県,65万kW)が,それである。石炭火力を新設した各社は,これらを少なくとも15年間は使い続けたいだろう。5基のうち最後となるJERA・横須賀2号機が運転を開始したのは,23年12月のことである。2023+15=2038であるため,2040年に石炭火力をたたんでも,この観点からも問題はないはずである。

 実は世界のなかで,石炭火力の建設的なたたみ方,つまり石炭火力のアンモニア火力への転換を提示しているのは,日本だけである。にもかかわらず,わが国の評判は,すこぶる悪い。このような閉塞状態を打開するために,日本政府は,40年に石炭火力をたたむと世界へ向けて宣言すべきである。また,新設の予定がないことから,25年以降,超々臨界圧石炭火力を建設しない方針も打ち出すべきである。そうすれば,国際社会から,「石炭火力の延命のためにアンモニアを持ち出している」と揶揄されることもなくなる。日本は,大手を振って,40年まで石炭火力を使い続けることができるのである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3495.html)

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