世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3491
世界経済評論IMPACT No.3491

マクロン氏の賭けは失敗,フランス政治は混迷

田中友義

(駿河台大学 名誉教授・ITI 客員研究員)

2024.07.15

 マクロン大統領が仕掛けた政治的賭けは失敗に終わった。議会選挙の勝者は左翼連合「新人民戦線(NFP)」か,あるいは極右政党「国民連合(RN)」か。敗者がマクロン氏を支える中道与党連合「再生(RE)」であることだけは明らかだ。

 なぜマクロン氏は危険な賭けを仕掛けたのか。今年6月6日から9日に行われた欧州連合(EU)の立法機関・欧州議会選挙のフランス国内での投票でマリーヌ・ルペン前党首・バルデラ党首が率いるRNが,与党連合REを大きく引き離して第1党となった結果を踏まえたものだ。マクロン氏は「極右の躍進はフランスの衰退を意味する」と危機感をあらわにした。極右RNに対する民意の反発を駆り立てれば,与党連合の支持回復ができるとみて,電撃的に国民議会(下院,定数577,過半数289)の解散に踏み切った。意表をつくサプライズ解散にマクロン氏を支えるアタル首相や閣僚らは当惑を隠さなかった。このタイミングでの議会選挙が奏功するかどうか大きな賭けだと評された。

 6月30日の第1回投開票では,極右RN(改選前議席88)が33.1%の得票率で第1位,左派連合NFP(同149)が27.9%で第2位,与党連合RE(同250)は20.7%で3番手にとどまった。RNのバルデラ党首は,7月7日の決選投票で過半数の議席を獲得できれば,首相に就任する意向を示した。REやNFPは決選投票で連携し,RNの躍進阻止を狙う。マクロン氏は「RNに対峙するため,決選投票に向けた共和国的な幅広い連携の時が来た」との声明を出した。REは約80人の立候補者を取り下げた。NFPも約210人の立候補者を撤退させ,候補者の一本化が図られた。

 7月7に行われた第2回(決戦)投開票結果は,NFPが事前の想定を覆す善戦を見せて182議席(33議席増,得票率25%)を獲得して第1党となり,RNが168議席(82議席減,同21%)と大幅減で第2党に後退,極右のRNが143議席(55議席増,同36%)と第1勢力への躍進を阻まれたが,得票率は最大でその勢いは衰えたとは言えない。確かに,勢いづくRNに対抗するための立候補者調整は奏功し,極右政権の誕生という最悪の事態は辛うじて回避できたわけだが,NFPが最大勢力になるとはマクロン氏にとって想定外の事態が生じてしまった。

 主要3党がいずれも過半数に至らず,各党の連立協議が動き始めた。第1党のNFPの最大政党「不服従のフランス(LFI)」のメランション党首は「NFPが国を統治すべきだ。マクロン氏はNFPの首相を指名すべきだ」と主張したうえで,中道・与党連合との連立を否定した。マリーヌ・ルペン氏から政治的野合と揶揄されたNFPとREの両党の連携は,反RNで一致するものの,政策面では大きな隔たりがある。特に,極左のLFIと与党連合は水と油の関係だ。

 ハングパーラメント(三つ巴の宙づり議会)の状況が続くとなれば,マクロン氏の政策遂行には大きな支障が出るのは必至だ。マクロン氏は中道・与党連合に,中道右派共和党や中道左派社会党などを加えた幅広い多数派形成を目指している。

 今後も,マクロン氏は,大統領職にとどまり,外交・国防政策を担うが,経済や財政など内政における決定権を失って,2027年の大統領選挙までにレームダック化(死に体)が進むだろう。フランス政治は混迷と停滞の時代に突入する。RNは第一勢力への躍進は阻まれたが,その勢いは衰えていない。マリーヌ・ルペン氏は「われわれの勝利の時は延期されただけだ」と強調。同氏の目指す目標は2027年の次期大統領選挙での勝利なのだ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3491.html)

関連記事

田中友義

最新のコラム