世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3484
世界経済評論IMPACT No.3484

始まったグリーンLPガスのロードマップ策定:2035年にCN対応200万トン

橘川武郎

(国際大学 学長)

2024.07.08

 2023年10月に開かれたグリーンLPガス推進官民検討会の第5回会合において,同検討会の委員でもある定光裕樹資源エネルギー庁資源・燃料部長は,冒頭の挨拶のなかで,「グリーンLPガスの取組みは他の合成燃料のそれに比べて立ち遅れている,早急に50年へ向けたグリーンLPガスのロードマップを作成する必要がある,官民検討会の事務局をつとめる日本LPガス協会の存在意義が問われている」と強い調子で苦言を呈した。一瞬にして会場に張り詰めた空気が流れたことは,言うまでもない。

 定光部長のこの指摘は,正鵠を射たものである。カーボンニュートラルへ向けたロードマップ作成の点で,グリーンLPガスを含む合成燃料が,水素やアンモニアに比べて立ち遅れていることは,紛れもない事実である。合成燃料のなかでも,都市ガス業界が取り組む合成メタンや航空業界が求めるSAF(持続可能な航空燃料)については,ロードマップが一応,存在する。それに対して,LPガス推進官民検討会第5回会合が開催された23年10月の時点で,石油業界が取り組む合成液体燃料(e-fuel)とLPガス業界が進めるグリーンLPガスに関しては,ロードマップが欠如していたのである。

 ただし,合成液体燃料について言えば,チリ最南端のパタゴニア地方のハルオニで,世界最初の実証プラントが,同国のベンチャー企業であるHIF(Highly Innovative Fuel)Global社の手で,すでに稼働している。HIF Global社とは,出光興産が23年4月に,MOU(基本合意書)を締結済みである。

 これに対して,23年10月の時点で日本には,グリーンLPガス製造の実証プラントが存在していなかった。グリーンLPガス開発の点で日本は世界を牽引しているから,「日本に無い」ということは「世界に無い」ということに等しい。以上の諸事情をふまえれば,定光部長の指摘が深刻かつ重大な意味をもつことは明らかであった。

 定光部長の苦言を受けて,24年3月に開かれたグリーンLPガス推進官民検討会の第6回会合においては,グリーンLPガスのロードマップの素案が,事務局(日本LPガス協会)より提示された。その主要な内容は,50年時点でのLPガス全量(約800万トン)のCN(カーボンニュートラル)化を視野に入れて,35年時点で想定需要量(約1250万トン)の16%(約200万トン)のCN対応を図るというものであった。

 35年までにCN対応を図る約200万トンの内訳は,(1)グリーンLPガスの輸入で約100万トン,(2)グリーンLPガスの国内生産で約20万トン,(3)カーボンクレジットの活用で約20万トン,(4)省エネ・燃料転換の推進で約60万トンとされた。そして,(1)〜(4)のそれぞれの具体的対応策としては,(1)については「アストモス/古河電工/SHVによる海外製造からの調達」と「その他,海外からのグリーンLPG/r(リニューアブル)DME調達」,(2)については「日本グリーンLPガス推進協議会による北九州地域での社会実装化」と「古河電工による北海道鹿追町での生産」,(3)については「LPガス市場でのカーボンクレジットの利用拡大」,(4)については,「高効率給湯器の普及促進(エコジョーズ,ハイブリッド給湯器,家庭用燃料電池の一段の普及促進)」と「石炭/重油等からの燃料転換」,の諸点が挙げられた。

 このロードマップの特徴は,35年を目標年次としていること,グリーンLPガスのみならずカーボンクレジットの活用や省エネ・燃料転換の推進をも包含していること,の2点に求めることができる。なお,(2)のグリーンLPガスの国内生産には,本来であれば,クボタ・高知県・高知大学・早稲田大学などが取り組む,稲わら等のバイオマスから触媒等を用いてグリーンLPガスを生産する手法も含めるべきであったろう。また,グリーンLPガス推進官民検討会の第6回会合では,(3)と(4)に関連して,「カーボンクレジット活用検討WG」と「高効率機器等普及促進に向けたWGW」の,二つのワーキンググループを立ち上げることが決まった。

 ところで,(1)に登場する「アストモス/古河電工/SHVによる海外製造からの調達」と「rDME」については,少し説明を加えておく必要がある。このうち後者について言えば,DME(ジメチルエーテル)はバイオマス等からも作ることができ,それがrDMEである。rDMEをLPガスに混入すると,その分だけ使用時に排出する二酸化炭素の量を削減することができるのである。一方,前者にかかわるオランダのSHV Energy社は,ヨーロッパを中心に世界各地で活躍するLPガスやLNG(液化天然ガス)の供給会社である。グリーンLPガス推進官民検討会の第6回会合でSHV社のDr. Keith Simonは,Futuria Fuels: “All in”on Sustainable Fuelsと題する報告を行った。報告のタイトルに掲げたFuturia Fuels(FF社)は,SHV社の傘下企業の名称である。FF社は,18年に船による出荷を開始することによって,バイオLPガス事業のパイオニアとなった。rDMEについては,世界各地でLPガスへの12%混入を進めており,LPガスのグリーン化に貢献している。4大陸で24件のR&D(研究開発)契約を締結しているが,そのなかには,23年11月に締結した日本の古河電気工業およびアストモスエネルギーとのMOUも含まれる。先述した「アストモス/古河電工/SHVによる海外製造からの調達」が,このMOUの延長上にあることは言うまでもない。

 グリーンLPガス推進官民検討会の第6回会合で提示されたロードマップは,あくまで35年を目標年次としたものである。さらに深掘りして,50年を視野に入れたロードマップを策定することが求められている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3484.html)

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