世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3461
世界経済評論IMPACT No.3461

中国は7月から10月までにデフレ対策を実施すべきである

小原篤次

(神戸大学大学院経済学研究科 研究員・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2024.06.24

 6月14日,齋藤尚登・大和総研経済調査部長を講義に招いた。齋藤は,財務省財務総合政策研究会「中国研究会」,金融庁「中国金融研究会」と両者の委員を務める。令和5年度の名簿によると,福本智之・大阪経済大学経済学部教授も両委員だ。福本は日本銀行国際局の要職まで務めた点で異能なチャイナウォッチャーで,大学に転じてからは積極的に学会に参加,大きく貢献している。両氏とも中国語が堪能で,不動産会社の債務問題に関心がある。

 齋藤(2023)は,(1)人口減少と少子高齢化の進展,(2)総需要減少。不動産依存型経済発展の終焉,不動産不況,(3)過度の投資依存と投資効率の低下,(4)債務残高の膨張,(5)「国進民退」とイノベーションの停滞-と5つの課題を指摘する。見通しについて「今すぐにではないが,中長期的には低成長常態化リスク。いずれ中国版“失われた20年”が始まる可能性」とし,さらに「(2)不動産不況,(4)債務残高の膨張に注目。最善でも成長率低下,最悪ケースでは金融危機発生の可能性」とした。齋藤(2024)は再び5つの課題をあげ,「課題に取り組まなければ,中長期的に成長率の大幅低下は不可避となろう」としている。

 福本(2024)は,「政府がいつ,どんな決断を行い,不動産デベロッパー業界の健全化に踏み込む施策を実施するかが,中国の不動産市場の安定を占う最大のポイント」としたほか,政策転換のきっかけとして,「住宅が引き渡されないことで庶民の抗議活動が広がり深刻な社会問題となるケースや金融システムへの影響,特に経営の相対的に脆弱な一部中小金融機関への影響が無視できなくなってくるケースなどを想定」と締めくくる。

 両氏が,金融・財政を通じてマクロな経済政策を担う,財務省と金融庁の委員を務めているということは,日本政府も当然,中国の経済動向を注視中と,筆者は理解する。

 最期に報道などから成長率を確認する。中国の成長率について,日経は2つの逆転を報じた。(1)名目と実質の逆転,(2)日中逆転である。重要なのは(1)である。

 2023年,名目成長率4.6%,実質5.2%で2015年以来,8年ぶりに名目と実質が逆転した(川手1月)。また,日本の名目経済成長(速報値)が5.7%,中国が4.6%で,1977年以来,46年ぶりに初めて上回った(Nikkei Asia 2月)。

 2024年1~3月期の実質成長率は前年比5.3%,名目は同4.2%,4四半期連続で実質GDPの伸びが名目の伸びを上回っている(Matsuoほか2024年5月8日)。

 中国は実質成長率目標(見通しではない)を公表しているため,政治目標になりやすい。統計の信頼性が論争になってきた。それでも統計の元締めである国家統計局がデフレの継続を認めていることを重視したい。もし共産党や政府に信頼される人物(内部・外部を問わず)がデフレの危険性を伝えることに成功すれば,次のGDP発表の7月からそのあとの10月までにデフレ対策の実施を表明するのが適切な経済運営だと考えられる。もし中国の研究所や大学からコロナ禍前同様に招かれることがあれば,丁寧に説明するつもりである。

 なお,筆者は40代になって北京市内の2つの大学で短期語学研修(私費留学),香港子会社で初の株式調査部長を経験した程度で,現地経験豊富な両氏のようなチャイナウォツチャーではない。一人中国語でビジネス交渉した経験がないが,企業の盛衰や意思決定プロセスを会議室で観察してきた。国内証券会社でグローバルアナリスト,グローバルストラテジスト(外国株式担当)を経て中国の国内株式市場への自己投資(顧客資産ではない)の中国の複数の役所(証券と外国為替)からの認可取得および運用チーム構築・リスク管理のほか,米国最大手銀行で貿易金融(プラザ合意の1985年),世界の株式に投資する米国系投資信託の情報開示,外国人株主の割合が高く複数の外国人取締役が派遣された上場企業社外取締役の経験がある。

 自己投資の大半は日本や先進国の債券投資である。中国株式は自己投資のなかでごくわずかな割合だが,変動率が高く,デリバティブによるリスクヘッジがなかなか容易ではないため,会社全体の経営に影響を与えないか,このほか多種多様なチャイナリスクが検討段階から強く懸念された。筆者からは最悪,価値がゼロになるリスクも説明した。

 ただ,「中国は巨大な生き物である」。視点が違う複数部署がビジネスを通じて定点観測すべきと考える,経営者の哲学に支えられていた気がする。株式投資をはじめ海外ビジネスにはリスクがつきものだからである。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3461.html)

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