世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
消費拡大になるのか
(独協大学経済学 教授)
2024.05.06
今年の3月に中国政府国務院は「大規模設備更新と消費財の買い替えを促進するアクションプラン」を発表した。これに続いて,商務省など14の省局が共同で「消費財買い替え促進アクションプラン」,4月に商務省など7の省局が「自動車買い替え補助金給付実施細則」を発表した。ここの消費財には自動車や家電製品と住宅設備が含まれる。消費財の買い替え,下取り,リサイクルなど買い替え促進環境作りの措置が,自動車の買い替えに補助金給付(新エネ車に1万元,ガソリン車に7千元)が内容であった。
このように大々的に消費促進策が打ち出された背景にはマクロ経済動向への不安があったからである。
2023年,前年同期比実質GDP成長率は5.2%を実現したものの,2022年の成長率はわずか3.0%だったことを考えれば,ポストコロナの経済回復力があまりにも弱いと言わざるを得ない。需要側から見てみよう。しかし,四半期のGDPデータには生産法GDPだけで,支出法GDPはないので,代わりに,国家統計局が発表した社会消費小売り総額,固定資産投資額と財政省が発表した政府支出額,税関が発表した輸出入額のデータを使う。
今年の1月~3月,社会消費小売り総額は12兆327億元で,前年同期の11兆4922億元より,4.7%増,固定資産投資額は10兆42億元で,前年同期の10兆7,282億元を下回った(国家統計局の説明では,在庫の調整や統計項目の調整などにより比較できない)。政府支出のうち,一般公共予算支出は6兆9856億元,前年同期比2.9%増,政府性基金予算支出は1兆7798億元で前年同期比15.5%減,輸出は8,075.0(輸入6,238.4)億米ドル,前年同期8,218.3(輸入6,171.2)億米ドルよりわずかながら減少した(ちなみに,2023年と2022年の年間輸出額は3兆3,800億米ドルと3兆5,936億米ドルである)。
支出法GDPから見れば,需要は民間消費支出,投資支出,政府支出と輸出入から構成される。長年,民間消費支出が弱いため,経済成長は輸出入と投資支出に依存してきた。しかし,上記のように,輸入を差し引いたネットの輸出はまだ黒字を維持していて,経済成長に貢献しているが,輸出額は減少傾向にあり,経済成長のけん引力は次第に弱まっていることが明白である。投資支出も,投資主力である地方政府の債務問題,インフラへの過剰投資や不動産販売不振による不動産企業の相次ぐ債務返済不履行のうえ,第1四半期,工業生産能力の利用率は73.6%に落ちたことから,それ以上は望めない。残りは民間消費需要だけである。
しかし,民間消費需要は現在所得と将来期待所得にかかっている。国民所得における家計部門の可処分所得比率の向上に努力しているが,直近の2021年はまだ59.7%にとどまっている(ちなみに日本のこれは65%前後である)。今年,第1四半期の1人当たり平均可処分所得(3か月)は11,539元(中央値は9462元)で,前年同期より6.2%(6.4%)増である。3月,若者(16歳~24歳)の失業率は15.3%である。更に,2023年に,総人口14億967万人に対して,65歳以上人口が2億1676万人に,総扶養率(老人扶養率21.8%+子供扶養率24.8%)は46.6%に達した今,将来に対する不安に煽られ,3月,家計預金残高が146兆4461億元に達し,前年同期(131兆1044億元)より15兆3417億元も急増した。このような状況の下で,消費拡大が期待できるであろうか。
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