世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日経平均株価5万円へ:「列島半導体クラスター」の形成
(国際貿易投資研究所 客員研究員)
2024.03.11
2024年3月4日,日経平均株価は終値で4万円を付けた。その2つの大きな要因は,第1に,経産省の「産業政策」が成功したことである。第2に,チャイナ「マイナスワン」の中国への外資の慎重な行動が2023年に鮮明になったことである。グローバル・サプライチェーンの再編が本格的になり,日本はこの2つの要因により株価4万円を達成した。
ところで,私は昨年5月29日付「世界経済評論インパクトNo.2978」で『日経平均株価4万円へ』を書いた。その見通しは間違いであった。その際に,イノベーションの達成が4万円の条件としたが,イノベーションなしで達成した。
本稿では,5万円達成の条件を示す。
1.経産省の「幼稚産業保護の産業政策」の成功
日本の産業政策が成功し,「『官僚たちの夏』再び」が実現した(注1)。これは日本の産業政策史において歴史的なことである。
政府は,TSMCの熊本第1工場の建設に補助金4760億円を投入し,2020年から2023年に総額4兆円を半導体産業政策に準備した(注2)。TSMCとともにラピダスの千歳工場,米マイクロンの広島工場など日本列島全体に補助金を投入している。ここに,「日本列島半導体クラスター」が形成される条件が整った。
2.チャイナ「マイナスワン」の発生
世界企業は,チャイナプラスワンの行動をとってきた。つまり,中国に工場を持ち,プラスでもう1つの国に工場を持つ。ところが,2023年には,チャイナ「マイナスワン」の行動を開始する企業が出てきた。2023年の中国への対内外国直接投資が前年比81.7%減の大幅な落ち込みとなった(注3)。この大きな要因は次の2つである。
第1に,よく言われる2023年7月1日の「反スパイ法」の成立である。いつ,どのような理由で逮捕されるかわからない国への投資は差し控えられるのは自然であろう。これは決定的に外資導入のチャンスを逃した。
第2に,不動産の不良債権処理のスピード遅れがある。金利低下政策は採られているが,不良債権処理には間接的な効果しかない。日本は1990年代の不良債権処理に1999年に公的資金を注入し,失敗した(注4)。これが教訓である。日本では,処理のための公的資金の注入の遅れにより株価が戻るまで1990年から2024年まで35年を要した。
逆に,日本の失敗の経験を生かした例が,2008年の「リーマンショック」である。この際の処理は,半年後に100兆円の公的資金を注入した。「アメリカは大量資金注入による不良債権処理に成功し,2009年には回復していた。
また,2023年前半のコロナ禍でのシリコンバレー銀行等3行破綻に対する公的資金の注入も迅速であった(注5)。遅れる時間の長さにより傷口の拡大が加速度的に大きくなる。中国はこの経験を学んでいない。
3.日本のモノづくり
産業革命の技術の突破口の決め手がモノづくりとなった。チャットGPTがAI利用で突き抜け,次の進歩が「モノづくり」に依存することになった。日本の改革のスピードが遅れ,モノづくりへの執着が続いた。周回遅れが幸いし,「モノづくり」では世界の先頭に立つことができる。そして,IoT(ものとインターネット)が決め手となる。
半導体の技術進歩の必要性が,日本に一点突破の可能性を生んだ。半導体は,微細な技術とともに,設計,前工程,後工程において多数の部品点数も必要とする「産業連関」のある産業である。変化のスピードの遅かった日本にものづくりに必要な技術,技術者が日本に残っていた。「列島半導体クラスター」の形成が日本で可能となった。
4.日経平均株価4万円を達成した条件
日経平均株価5万円に向けた条件は,4万円を達成した理由から明らかになる。
第1に,習近平氏の「体制改革」は,2024年3月の全国人民代表大会で完成した(注6)。習氏の「体制改革」が存続することが日本に有利に働く。グローバル・サプライチェーン再編は不可避となり,チャイナ「マイナスワン」で選ばれる大国は,インドと日本である。
第2に,「産業政策」により,幼児期の幼稚産業保護の段階に必要な条件は整備された。次の青年期に向けて条件の整備が日本企業の課題となる。
5.日経平均株価5万円を達成するための条件
今後の株価は,日本が青年期に達成すべき次の3つ条件となる。
第1に,エンジニア人材の育成である。産業クラスターの形成が継続する条件は,「エンジニア人材の育成」である。理系の持続的な強化が不可欠である(注7)。大学の役割は大きい。第2に,IoTの融合の成果を得ることである。ものづくりの日本で欠けているのは,インターネットの「ソフト面」である。第3に,外国からの人と企業との連携である。つまり,「合併,買収,提携」などである。特に,メルカリのインドからの人材導入は1モデルである。
[注]
- (1)朽木昭文,世界経済評論インパクトNo.3082 2023年8月28日。
- (2)時事通信,2024年3月2日。
- (3)河野円洋,「中国,2023年の外資利用額は前年比8.0%減,製造業・サービス業とともに減少」,ジェトロ・ビジネス短信・北京発。
- (4)週刊エコノミスト,2008年10月7日。
- (5)新見未来,「シリコンバレー銀行など破綻3行に共通する4つの問題点」,会社四季報ONLINE(2024年3月7日アクセス)。
- (6)日本経済新聞,2024年3月5日。
- (7)Kuchiki, A. (2023) “Accelerator for Agglomeration in Sequencing Economics: “Leased” Industrial Zones,”Economies, 11(12), 295
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