世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
古河電工と北海道・鹿追町が日本初のグリーンLPガス生成に挑戦
(国際大学 学長)
2024.01.08
2023年の8月,北海道の鹿追町環境保全センター内にある,グリーンLPガスの生成をめざすプロジェクトのベンチプラント建設予定地を見学する機会を得た。ここで言うプロジェクトとは,2022年4月にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金(GI基金)事業「CO2(二酸化炭素)等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト 化石燃料によらないグリーンなLPガス合成技術の開発」に採択された,古河電工などの「革新的触媒・プロセスによるグリーンLPガス合成技術の開発・実証」のことである。なお,GI基金とは,日本政府が「50年カーボンニュートラル」実現のため,国立研究開発法人であるNEDOに造成した2兆円規模の政策的資金のことである。
この古河電工のプロジェクトは,金属触媒の固定技術を応用し,家畜のふん尿から得られるバイオガス(主成分はCO2とメタンガス)をグリーンLPガスに変換するものである。従来は活性が低いため短時間しか持続しなかった触媒反応を大幅に改善した点に,特徴がある。
カギを握る金属触媒は,「ラムネ触媒」と呼ばれる。古河電工が育んできたメタルとポリマーの製造・加工技術を用いて,多孔質材料の内部に微小サイズの金属触媒を固定した姿がラムネのビンに似ていることから名づけられた。この触媒を使うことによって,バイオガス(CO2,メタン)を合成ガス(一酸化炭素,水素)に変換するドライリフォーミング反応において,高活性と長寿命を実現することができる。この合成ガスから,カーボンフリーの合成LPガス(グリーンLPガス)を生成するのである。
GI基金を使って古河電工は,北海道大学および静岡大学と連携して,生成率の高いグリーンLPガス合成技術の確立に力を入れている。そして2030年には,グリーンLPガスを年間1000トン製造する技術の実証を完了する予定である。また,そこにいたる一つのステップとして,年産200〜300トン規模のベンチプラントを2025年ごろまでに稼働させようとしている。
古河電工は,LPガス事業に関しては,ある意味で「素人」の会社である。したがって,グリーンLPガスの生成実証にあたってはエコシステムを構築することが,重要な意味をもつ。古河電工は,ベンチプラントの建設予定地として,家畜ふん尿や家庭生ごみを発酵させるバイオガスプラントをもつ北海道十勝の鹿追町環境保全センターに白羽の矢を立てた。同センターを運営する鹿追町と古河電工は,2022年に包括連携協定を締結した。また,古河電工は,グリーンLPガスの社会実装を視野に入れて,LPガス事業の「玄人」であるアストモスエネルギーおよび岩谷産業とも連携を進めている。
鹿追町環境保全センターは,中鹿追地区と瓜幕地区との2ヵ所に分かれて立地する。これらのうち古河電工がグリーンLPガスの生成実証のベンチプラントを建設しようとしているのは,中鹿追地区の施設だ。
現地を訪れて,古河電工がなぜ中鹿追地区の施設を選んだのか,よくわかった。2007年に稼働した同施設には,約5.15haの敷地に,バイオガスプラントと堆肥化プラント,コンポスト化プラントが並ぶ。堆肥化プラントでは,乳牛糞尿および生ゴミの水分を調整し,自動攪拌機を使って堆肥化する。コンポスト化プラントでは,農業集落排水汚泥,合併浄化槽汚泥,事業系生ゴミをタイヤシャベルによる切り返しを行なって,堆肥化する。そして,敷地の大半を占めるバイオガスプラントは,原料(乳牛糞尿)運搬車輌を受け入れるトラックスケール,原料槽,箱型発酵槽(4基),円柱型発酵槽(2基),ガス発電機,バイオガス精製圧縮充填装置,温水ボイラ,蒸気ボイラ,消化液貯留槽,余剰熱供給施設,育苗用ハウス,マンゴー用ハウス,チョウザメ育成施設,水素製造供給施設,および研究棟によって構成される。乳牛糞尿等の計画処理量は,1日当たり94.8トンである。
鹿追町環境保全センターは,これまでFIT(固定価格買取制度)を活用して,売電を行なってきた。しかし,まもなく,FITの有効期限は終了する。そこで鹿追町は,売電以外のビジネスモデルを模索することになった。従来からの堆肥利用に加えて,水素や余剰熱を活用したマンゴーのハウス栽培,チョウザメの育成,水素ステーションの運営などがそれであるが,とくに注目するようになったのは,バイオガスを原料とするLPガスや都市ガス(メタンガス)の生成であった。
一方,古河電工は,グリーンLPガス生成の原料となるバイオガスのきちんとした供給源を探していた。鹿追町は,環境保全センター等の取組みなどが評価されて,環境省が認定する「脱炭素先行地域」に,2022年の第1回選考で早々と選ばれてもいる。鹿追町環境保全センターは古河電工が探し求めていた「きちんとした供給源」そのものだったのであり,日本最初のグリーンLPガス生成のベンチプラントが同センターの中鹿追地区の施設で建設されようとしているのは,必然性の帰結なのである。
見学当日,バスで通りがかった帯広駅前の気温計は36℃をさしていた。猛暑をおしての見学となったが,中鹿追地区の鹿追町環境保全センターの現場には,その暑気を吹き飛ばすような熱気に包まれていた。それは,まがいもなく,パイオニア精神がもたらす熱気であった。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国際ビジネス
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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