世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3215
世界経済評論IMPACT No.3215

日越関係の新たな50年に向けた新しい扉を:トゥオン国家主席と岸田首相の共同声明から

グェン トゥイ

(千葉商科大学 専任講師・アジア未来協会 会長)

2023.12.04

 日本とベトナムは過去から現在へと至る特別な関係を築いてきた。17世紀ベトナムでは王女アニオー姫と長崎商人の美しい恋の物語が生み出されたように,古くから日本とベトナムの間には今日につながる国民同士の強い「縁」があったことがわかる。これが今日の両国の関係にとって強固な絆となり,未来に向けた「縁」の基礎となっている。

 1973年9月21日,日本とベトナムの間に外交関係が正式に樹立した。1993年3月,ボーヴァンキエット首相が初めて日本を公式訪問し両国の関係は新たなステップを踏み始めた。そしてその翌年,村山富市総理大臣が首相として初めてベトナムを公式訪問した。それ以来50年にわたり,上皇后両陛下,今上天皇陛下(当時皇太子殿下),秋篠宮皇嗣殿下,日本国総理大臣,衆議院議長,参議院議長等がベトナムを何度も訪問し,ベトナム側からも,ベトナム共産党書記長をはじめ,国家主席,首相,国会議長など,国家元首,政府首脳が訪日する多くの機会があった。

 50年間ベトナムと日本は共に歩み続け,様々な分野で重要なパートナーになっている。2002年には「信頼できるパートナー,長期的な安定関係」という呼称が外交関係に使われ,2006年には「アジアの平和と繁栄のための戦略的パートナーシップに向けて」と題する共同声明が両国首脳より出された。続く2009年には「アジアにおける平和と繁栄のための戦略的パートナーシップ」,2014年には両国の関係を「アジアの平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップ」と段階的に格上げする声明が出された。そして,今回2023年11月にベトナムのヴォー・ヴァン・トゥオン国家主席が日本を訪問し,ベトナムと日本の関係は「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的な戦略的パートナーシップ」へとさらに格上げされ,トゥオン国家主席と岸田首相は共同声明を発出した。これは経済や安全保障,人的交流,地域や国際情勢への対応にいたるまで幅広い分野での相互協力の強化を謳ったものである。すなわちベトナム,日本の二国間の発展をこれまで以上に強化するとともに,長期的視点から日越両国の発展を軸としてアジアと世界の平和と安定および発展に寄与することを両国が強い意志をもって確認したと理解されよう。それは安定したインド太平洋と,ASEANの中での位置づけを意識した安全保障面での新たな枠組み,例えばODAとは別枠組の日本の新たな支援枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」ついて触れられたことにもあらわれている。また今回は既存の経済面での協力強化のほかに,両国の持続可能な発展,長期成長のキーとなる分野での協力と人材育成が言及されたことも極めて印象的であった。

 日本の国会で演説したトゥオン国家主席は「両国には良縁がある」旨言及した。さらにトゥオン国家主席は踏み込んで,両国の関係について「誠実な友人,信頼できるパートナー,戦略的協力,持続可能な将来」を構築する決意を表明した。この演説は日本とベトナムはこれまでも,そしてこれからも大切なパートナーであることを両国民が認識する重要な機会になったと言えよう。日本には今日50万人強のベトナム人が居住し,労働,投資,観光,貿易などの様々な面で重要なパートナーとなっている。他方ベトナムにとって日本は最大のODA供与国となっており,上述の共同声明ではGX,DXなど持続可能な発展を担う分野における支援も日本から表明された。2045年の先進国入りを目指すベトナムにとって,持続的発展を維持するには日本との長期的な信頼関係と支援が必要不可欠になっている。ここから両国の強みを生かして相互に発展する未来志向性をさらに強めていく決意とともに,南シナ海情勢で懸念を共有していることから,安全保障面からも両国の信頼関係は今後より強固なものになろう。

 人的交流という観点で,今回の共同声明で印象的だったのは,両国間の高等教育における協力強化の模索が強調されていたことである。筆者は国と国民の威信と強さは,質の高い人的資源,知性,知識,人格にあると常に考えている。そのため,今回の訪日中に国家主席が高度人材の育成と両国間の協力,交流を目標に定めることを明確に述べたことは,極めて重要であり,筆者は非常に嬉しく思っている。実際,人的交流,文化協力は本訪問全般にわたり注目されるテーマになった。11月27日,筆者は駐日ベトナム大使館でトゥオン国家主席に謁見,懇談する機会を得た。国家主席は,両国の文化的類似性,歴史的関係,友好関係,多くの共通の利益を共有することが,ベトナムと日本の関係を密接に結びつけてきたと言及した。さらに在日ベトナム人研究者に日越両国のために引き続き貢献してもらいたいとの期待を述べた。

 国家主席の言葉には両国の人的交流が如何に重要であるかが示されている。古くからの両国の人的交流が,両国の関係をより緊密なものにしてきたし,今回の両国政府間のオープンかつ友好的な交流を通じて,両国間の信頼関係がさらに強化されることへの期待が込められている。両国関係は先述のように,まさに国民自身によって切り開かれ,今後の両国の物語もまた両国民によって築かれる。両国民の交流は,両国間の関係全体において,信頼と持続可能な関係を築く上で極めて重要な基盤である。筆者は,両国政府,そして両国民が互いに誠実さをもち,かつ信頼しあい,多くの共通の利益を分かち,両国政府と両国民が共同宣言の内容を適切に履行する決意を持っていれば,戦略的協力は成功し,両国間の関係は長期的かつ持続可能なものになると信じる。そして,ベトナムは2045年までに高所得国になる目標に向かって,アジアで第2の日本のようにさらに大きなプレゼンスを発揮する国になり,日本もベトナムとの強固な協力のもとでアジアにおけるプレゼンスを発揮していく国になると強く期待している。

 今回の国家主席の日本訪問はあらゆる面で非常に有意義なものとなり,両国関係の発展の新たな一章を開いた。日越外交関係樹立50周年に,国家主席の訪問では天皇陛下をはじめ,日本政府首脳など多くの会談の機会があり,両国国民の心を慈しみ,尊重する交流を感じることができるものであった。両国間の強固な信頼関係の基礎になる非常に重要な成果を残した歴史的な訪問であったといえよう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3215.html)

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