世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
地域金融機関は社会の公器なのか
(東北学院大学 教授)
2023.10.30
貧困の解消から環境問題の改善,平等な社会の実現など,17の目標を掲げたSDGs(持続可能な開発目標)の登場により,社会は企業に対して「経済性」(いかに多くの利益を得るか)から「社会性」(社会に配慮してどのように利益を得るか)をより重視する企業経営を強く求めるようになった。他業種と比較して取り組みが遅れているわが国の地域金融機関においても,近年,自らの経営方針や事業活動の中でSDGsにどのように取り組むかを表明している(「SDGs宣言」)。
現在,地域金融機関が取り組んでいるSDGs活動は多岐にわたっているが,各金融機関のホームページやディスクロージャー誌等を見る限り,目標4「すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し,生涯学習の機会を促進する」に基づく金融経済教育や,目標8「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」に基づく地域経済の活性化や地方創生に取り組んでいる金融機関が多いようである。
さて,SDGsと類似の概念としてCSR(企業の社会的責任)があるが,SDGsは具体的な目標を示しているのに対し,CSRはその背景にある企業の姿勢や考え方を示すものであり,CSR経営の実践がSDGs達成において必要不可欠であることは論を俟たない。
わが国の企業がCSR経営を明確に意識するようになった2003年(「CSR元年」)以降,地域金融機関においても毎年CSR報告書を作成して公表するなどの取り組みが行われている。しかしながら,それらの取り組みの多くは,(1)経営戦略におけるCSRの位置づけが不明確である(CSRをコスト要因としか見ていない),(2)CSR推進体制が未整備である,(3)CSRの取り組みの多くは未だ「法令遵守」や「企業市民活動(フィランソロピー)」のレベルに留まっているなど,欧米で主流となっている「本業(金融業)におけるCSR」への取り組みは極めて限定的である。加えて,地域金融機関では行職員による内部事件(着服や横領など)や利益相反行為,顧客情報の流出などの不祥事があとを絶たず,その背景として,地域金融機関の時代遅れの企業風土や企業統治体制の不全が指摘されている。
これまで地域金融機関は,伝統的に理念・目的として「地域との共存共栄」を掲げ,その社会性を問われることは殆ど無かった(社会性があるのは当然として)。しかしながら,地域社会における地域金融機関として役割が一層重要性を増すなか,CSRの観点から,改めてその社会性の有無や地域金融機関間での程度の違いを徹底的に検証する必要があろう。その検証により,仮に地域金融機関に十分な社会性が認められないのであれば,地域金融機関を中軸に据えたわが国の地域政策を根本から見直さなければならない。
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