世界経済評論IMPACT（世界経済評論インパクト）

上海はこの様になり，私たちは非常に悲しい：中国経済“バブル崩壊”のシグナルか？

朝元照雄

（九州産業大学 名誉教授）

2023.08.21

　7月22日，ペンネーム「鏘鏘一言堂」のネット寄稿文，「上海はこの様になり，私たちは非常に悲しい（上海搞成这样，我们都很难过）」が中国の多くのフォロワーの共鳴を得て，大きな話題となっている。その後，この寄稿は中国のネット上では削除されたが，海外のネットではまだ読むことができる。

　中国では少子高齢化，不動産価格の暴落，20％を超える若者の失業率，物価の高騰と消費の低迷により，経済は衰退化に向かっている。特にゼロコロナ政策と２か月に及ぶ上海のロックダウンによる民生への影響が極めて大きい。寄稿によれば上海の大企業，中型企業，個人経営は，倒産や一時休業に追い込まれ，店舗はシャッターを閉じ，不況の嵐に見舞われている。そしてこの状態を魔都上海の“没落”と呼び，同時に中国の指導者を間接的に批判している。この寄稿で「本来この災難は避けることができた」や「上海にカネが無くなると，困るのは単に上海人だけでない」と述べている。本稿でその概要を訳し紹介する。

　「耳の痛い話であるが，私はやはり言いたい。上海の現在の様子を見て，心は不可解に悲しい」から文章が始まる。原文を読むと上海人独特の表現を使うことから，ペンネーム「鏘鏘一言堂」は，長年上海で暮らしている「老上海人」と考えられる。

　「友人が上海に遊びに来た時，共に，上海の虹橋駅，南京路の步行街と上海駅（上海火車站）付近の現状を見て，私のよう敏感な文人はしゃくり泣きがとまらない」と述べた。「鏘鏘一言堂」はかつて，「虹橋駅に来た。上海は本当にカネがない（到了虹桥站，才知道上海是真没钱了）」を書いた。

　その概要は次のようだ。「両側の店舗は閉店し，修繕という名で店は休業し，ライトの光は（コロナ禍以前より）暗くなった。ホールに多くの人々が動き回り，熱気ムンムンの昔の賑やかな雰囲気は既に失せて，気持ち悪さを体感する。“俺の上海は，空調機のスイッチを切って節約する程度の街になった”」。

　「このような悲しみは，多くのフォロワーから共感を呼んだが，同時に少数の人の怒りも引き起こした。ある人は怒って私にメールを送り，“俺は先ほど上海虹橋駅を歩いてきたが，歩行者は非常に多い。君は何を企んでこのような主張をするのか？”と私に問いかけた」。

　「上海遊覧に，南京路は外せない」。「（南京路の最も賑やかな）歩行街に入ると，大きな“置地広場（注１）”の入り口は人影が少ない。良く言えば，“レベルアップのための改造中”と言うが，最上階の営業しているいくつかの店にも，恐らく行く人は少ないだろう」。「転々と回り，６階のレストラン“薩莉亜（サイゼリヤ）”に食事に行こうとしたが，２階に行くエスカレーターが止まっている。さらに，上の階に行くと，４階から上のエスカレーターは使用中止で，（動かない）エスカレーターを踏んで上の階に登る。これを（上述の）“レベルアップ”と言うのか？エスカレーターを動かすカネすらないのか？」。

　「最もガッカリしたのは（南京路名店）“美特斯邦威（注２）”だ。シャッターは閉まり店舗名の文字は汚く剥がされ，鉄製フレームが露出し，ライトの電線が醜く空中にぶら下がっている。まるで漢方薬の貼り薬（注３）が歩行街に貼っているようだ。ここは上海で最も高価な“黄金地帯”で，多くの企業が競って入りたがった場所ではなかったか？」。「（上海で最も高価の地区の）南京路がこの有様であるなら，他の場所は一体どんな状態なのか？」。

　「友人を送って帰る時，俺は特に上海駅（に行く道）を選び，この地下街をわざわざ見ようとした。数日前のネット動画である人は，この近くの店舗は殆どが閉店したと言っていたが，これはデマなのではないかと考えた」。「南広場の出口から下に向かって歩くと，ネット動画の言うことは嘘ではなかった。文房具の店舗，アパレルの店舗，テレホンカードの店舗，スマートフォン部品の店舗はことごとく閉店していた。シャッターを閉じた店の裏には，小店舗のオーナーたちの多くの悲しい物語があったことだろう」。

　「上海駅（の付近）は小さな個人経営企業，虹橋駅（の付近）の大きな店舗は財力が中型企業，南京路のショッピングモールなどは大企業のグループが立地し，この３つのエリアが上海を代表する商業地区と言える」。「個人経営のオーナーにしろ，大企業にしろ，倒産，閉店，（借金による）夜逃げが相次いでいる。これは上海の“没落”の縮影なのか？上海は中国の商業の中心都市ではないか」。

　「上海はまるで“苦労を背負う長男”のようだ。儲けたカネは家計に補填してきた。ポケットにカネがあれば，“弟と妹”が口を開けてカネを欲しがる（貧しい省の財政補填）。今年，雲南省（上海が援助する省）の“弟”がカネを欲しいと言った。しかし，上海の悲惨な現状を見ると，君（雲南省）は“地主の家には余剰の食糧”（注４）があるとまだ信じているのか？と嘆息せずにはおれない」。

　「上海にカネが無くなり，それで困るのは単に上海人だけではない。時計の針を１年前に戻すと（ロックダウン期間に），多くの人々が司馬南，明徳先生（いずれも中国の強硬な民族主義志向の論客）に追従し，ロックダウンに不満の人々に対し口誅筆伐（言葉と文章を使って激しく批判）を行った。その後の日々でカネが必要になるとは考えなかったのか？」。「これらの人々は司馬南などのために，自分の同胞の“お碗（メシ）”を壊すことができるのか？」（筆者注：「鏘鏘一言堂」は，司馬南を痛烈に批判していた（注５））。

　「真理は時に少数の人の掌中に握られ操作される。当時，批判が最も多く，不当な仕打ちを受けた呉凡女史（注６）の言葉を聞いていたら良かった筈だ！」。「しかし時は既に遅い。上海はこの様な姿になり，私たちは非常に悲しい。何と言おうが，彼女（上海）はこの災難を避け得た筈だ」。

　「だが，私は希望を捨てていない。彼女（上海）は単に“転んだ”だけで，骨折までには至らず，少し休みさえすれば元気を取り戻す。再び繁栄した上海を取り戻そう！」。「一回の失敗から教訓を得て，智慧が芽生えた。馬鹿者，悪者の“駒”になってはいけない。上海はもう怪我はできない，そして国家も怪我をすることはできない」。

　この寄稿は，「鏘鏘一言堂」の上海のフォロワーから共鳴を受け，ある人は「農民工の住居区を見ると良い。そこはもっと悲惨だ」というコメントも寄せられ。上海以外のフォロワーからは「深圳，成都，武漢，南昌などの情況は上海より悲惨だ，中国で最も豊かな上海がこの有様なら，他の都市はもっと酷い」との書き込みがあった。そして「現在の中国の不況は，上海における数カ月連続のゼロコロナ政策による影響だ」と当局を痛烈に批判している。

［注］

• （１）置地広場（ランドマーク）は，上海南京路という一等地に位置し，様々なブランドが取り扱われ，セールキャンペーンも多く，若者に愛されているショッピングセンターである。住所：黃浦区南京東路409-459号。
• （２）美特斯邦威（Metersbonwe）は，1995年に浙江省温州市で創業した中国系服装企業。新型コロナ禍を受け，2021年に不況により美特斯邦威は杭州最大の店舗を閉店。2022年４月から従業員の給料支払いの遅れが生じ，上海，遼寧，天津などの子会社と関連企業に影響が及んだ。2022年６月末，一部分の従業員は美邦服飾の上海本部で給料不払いに対する抗議活動を行い，上海本部が正常な運営ができないと報じられた。
• （３）原文は「狗皮膏藥貼」。生草烏，生川烏，羌活，獨活など20数種類の漢方薬剤による貼り薬。
• （４）コメディー映画「甲方乙方（夢の請負人）」（1997年）の葛優（グォ・ヨウ）のセリフを援用。
• （５）「鏘鏘一言堂」の寄稿からも司馬南などに対する批判の記事が多いと分かる。https://space.bilibili.com/1336440639/
• （６）呉凡は復旦大学上海医学院副院長，上海市疫情防止指導チーム専門家メンバーである。３月26日に，彼女は「上海のこの都市は単に上海人民の自分の上海だけでなく，全国の経済社会の発展に重要な役割を負い，更に世界経済に対し大きな影響を及ぼしている」と述べ，上海のロックダウンに反対している。