世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3067
世界経済評論IMPACT No.3067

TSMCグローバルR&Dセンターの落成式:魏哲家総裁,劉徳音会長は何を語るのか

朝元照雄

(九州産業大学 名誉教授)

2023.08.14

 7月28日,新竹サイエンスパーク寶山園区(新竹県寶山郷)の「TSMCグローバルR&Dセンター」の落成式が行われた。蔡英文総統は新型コロナ感染のため,陳建仁行政院長(首相に相当)が代理出席,王美花経済部長(経済相),楊文科新竹県長(県知事),大手ハイテク企業のトップなどが出席した。

 同センターは2020年7月に着工した。2023年2月には約2000人のスタッフが入居,9月までに7000人に達するという。敷地面積は30万平方メートル(サッカー場約42面に相当)で,建物面積は地上10階,地下7階の2万平方メートル。外観はモダンで洒落たデザイン,雨水回収システムを設置している。壁は植栽され,太陽光を最大限採光できる窓となっている。太陽電池パネルからは1日当たり287kWの電力生成ができ,永続的発展を追求している(【完整公開】台積電全球研發中心 啟用典禮)。

魏哲家総裁の挨拶

 落成式の冒頭でTSMC(台湾積体電路製造)の魏哲家総裁(CEO)は,歓迎の辞を述べ,この落成式の意義について次のように語った。

 まず,技術の「根留台湾(根幹を台湾に残す)」の決心を示すことである。近年,クライアントの要請に応えて,世界各地で多くの生産ラインを建設した。努力して本分を尽くすが,ビジネスの中心を海外に移転するのではないかと,心配する多くの声が聞かれた。これに対する私の答えは「No」である。グローバルR&Dセンターの落成式は,台湾の人々にTSMCの「根留台湾」の決心を行動で示すためでもある。

 次に,この機会に政府の支援に感謝の意を表すことだ。長年にわたりTSMCは政府から水,電力,人材育成などの面で支援を得たことで,今日の姿を築くことが出来た。TSMCは新竹,台中,台南,高雄など台湾の多くの場所で生産基地を設けたが,各地方政府も,現地の人々も,TSMCを暖かく見守ってくれた。これがあったことで我々は安心して楽しく仕事することができ,世界の各地にも活動の場所を持てるようになった。この機会にTSMCは「グリーン発電」,「用水の節約」など環境保全に対する要求に全力で取り組み,必ず達成することを誓う。これはTSMCが社会,国家および全世界に対する責任と義務である。

 グローバルR&Dセンターの使命は,持続的にR&Dに投資し,クライアントのために最先端の半導体を開発することである。そしてそのTSMCの技術を用いたクライアントが,世界で一位や二位の地位を獲得できるようにすることである。TSMCは創業者の張忠謀(モリス・チャン)の指導の下,活動を続けてきた。モリスは既に第一線を退いたが,モリスの影響力は今でも絶大であり,経営チームはモリスが示した原則のもとで,「ナレッジ・リーダーシップ」,「製造エクセレント」,「顧客への信頼」に取り組んでおり,これは私たちの誇りでもある。

 本日のグローバルR&Dセンターの落成式で,我々はナレッジ・リーダーシップの新しいマイルストーンを刻み,TSMCのメンバーはモリスの期待に応えるべく更に努力して行く。

劉徳音会長の挨拶

 TSMCのグローバルR&Dセンター落成式に臨席いただき感謝。TSMCが持続的に半導体技術の開発に邁進し,技術革新を続け,「根留台湾」を続けて行くことを検証してもらえると思う。

 36年前,創業者モリス・チャンが,台湾の土地にTSMCを設立し,長年にわたり耕耘の努力を続けたことで,TSMCは半導体業界のリーダーになった。TSMCの研究開発の歴史は,1987年に工業技術研究院(ITRI)電子工業研究所でのR&Dに始まった。その後,1990年にTSMCの第2工場,1996年に第3工場,2003年には第12工場が次々と完成し,R&D活動は第12工場で20年間続けられてきた。そして,R&Dチームは5年前から世界のR&D技術をリードする新しい建屋の建設事業に着手した。

 グローバルR&Dセンターの建屋は,高い屋根,回転回廊,変化自在の作業空間などを有するが,TSMCの技術は,建築からではなく,伝統から作られるものである。この30数年間,TSMCのR&Dチームは,チームワークにより半導体の技術革新の成果を生み出した。この技術的創造により,経済的価値を高め,社会と人類に対し大きな影響をもたらした。R&Dセンターには世界中から異なる領域のR&D人材が集まってきた。2013年,第12工場で線幅90nm(ナノメートル)の半導体を開発し,20年後の今日,このR&Dセンターに移転し,線幅2nm,実に90nmの45分の1の半導体を開発した。今後,R&Dセンターはどのような技術を開発するのか。どのような新材料を使うのか。どのようなチップレット(注1)による堆積ができるのか。どのような光と電気が結合できるのか。どのような量子コンピュータとデジタル演算の共用ができるのか。R&Dセンターのチームは,私たちにその答えを示し,大量生産の方法を見つけ出してくれるだろう。

 このグローバルR&Dセンターは,TSMCのR&Dの伝統に基づき,オープン・イノベーションを通じて,パートナー,サプライヤー,世界の学術界のR&Dチームと協働し,最先端で,最も競争力の高い半導体技術を開発する。そして協働による動態的イノベーションで,更に美しい未来を創造していく。

 落成式の後半では,本稿の冒頭で触れた人々のほか,創業者モリス・チャン,高唯言(清華大学学長)などを含む12名の代表が壇上に上がり,R&Dセンターの起動ボタンを押した。筆者が注目したのは,羅唯仁(TSMCの序列4位),候永清(同・9位),米玉傑(同・7位)の3人の副総経理が含まれていたことだ。恐らく,この3人はR&Dセンターの責任者的立場にあると推測できる。

[注]
  • (1)チップレットとは,これまで1チップに集積した大規模な回路をあえて複数の小さなチップに個片化し,「インターポーザ」と呼ぶチップレット間をつなぐ基板上に乗せて大規模化して1パッケージに収める技術である。
[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3067.html)

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