世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中国経済について考える
(静岡県立大学国際関係学部 講師)
2023.07.31
中国経済の現状に関して,懸念の声が聞こえはじめている。それは冴えない経済統計を反映したものである。中国国家統計局が発表した2023年第2四半期の国内総生産(GDP)成長率は前期比で0.8%の増加と第1四半期の2.2%から大幅に鈍化した。さらに,物価水準も低空飛行である。中国の6月の消費者物価指数(CPI)の上昇率が前年同期比で0%となり,5月の0.2%上昇から鈍化した。変動が激しいエネルギーと食品を除いたコアCPIの6月の上昇率は0.4%で5月から0.2ポイント低下した。
このような数字から,中国はすでにデフレに陥っているとする論調もちらほら見かけられるようになった。なかには中国経済の日本化が進行しているとする意見も見受けられる。しかし,現在,中国で進行しているのは,日本化ではなく,ロシア化である。その結果,中国経済は停滞している。
政治的な強権が経済的威圧をもたらし,相手に自分の言う通りにするように強制しようとしている。この相手が国である場合もあれば,国内の企業の場合もある。これがロシア化である。対外経済関係では,中国のロシア化は戦狼外交という形で現れている。コロナの原因究明を求めたオーストラリアからの輸入を規制したり,日本の福島第一原発の処理水の放出に反対して,水産物検査を強化したりするなど,例には事欠かない。このようなやり方は,ロシアが穀物合意からの離脱することにより,ウクライナ紛争による西側からの制裁緩和を狙っていることと同じである。
中国国内では,共産党の意に添わないテック産業への締め付けに代表される。さらに,不動産業や教育産業への規制強化により,共産党の意のままに従うように強制しているかのような例もある。さらに,習近平指導部は,近年,民間企業よりも国有企業の強化に力を入れている。これが,国内経済におけるロシア化である。ロシアでも,プーチン政権の意に添わないオリガーチを追放して,自分の取り巻きを経営のトップに据えている。さらに,ロシアも資源産業を中心にして,国有化を推進した。
このような中国のロシア化は経済に深刻な影響をもたらしている。それは,鄧小平による改革開放政策で得られた経済の活力の減少である。ロシア化により,国内では市場競争は弱体化しており,そのことが経済に歪みをもたらしている。対外経済では,経済的威圧により,脱中国という形で貿易パターンの歪みをもたらしている。
このロシア化は,政治的パワーと経済的パワーの関係の誤解から生じている。経済的パワーは政治的パワーを補強するが,政治的パワーが経済的パワーを補強するとは限らない。ロシアを見て明らかなように,強力な政治的パワーがあっても,工業化を達成できず,資源に依存する経済構造を変換できていない。このロシア化の観点からみると,中国経済の見通しは,少なくとも,中長期的には暗い。
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