世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3017
世界経済評論IMPACT No.3017

新たな段階に入った日系コンビニの国際展開

川邉信雄

(早稲田大学・文京学院大学 名誉教授)

2023.07.03

 コンビニは,1960年代後半に米国から日本に紹介された。1970年代には大手スーパーが参入し,各社がいわゆる「日本型コンビニシステム」を構築し,効率のよい小売業態として,国際競争力をもつようになった。

 1980年代から1990年代初めにかけて,米サウスランド社によるセブン−イレブンのほか,ファミリーマート,ローソン,ミニストップが,経済成長を遂げたアジア諸国を中心に国際展開をした。まず,最初に進出したのが,香港,シンガポール,台湾,韓国のアジアNIEsであった。アセアン原加盟国のタイ,マレーシア,フィリピン,インドネシアが後に続いた。この間,1990年3月にはコンビニの生みの親ともいえる米サウスランド社が倒産した。セブン−イレブン・ジャパン(SEJ)が1991年3月に資本・経営参加し,サウスランド社を本格的に再建するという,日米逆転が生じた。

 1990年代になると,高度成長を遂げ,「世界の工場」から「世界の市場」となった中国が日系コンビニの第二の主戦場となった。同じ頃,アセアン新加盟国である,ベトナム,カンボジア,ラオス,ミャンマーが注目を集めるようになった。なかでも,ベトナムは急成長を遂げ,日系コンビニの進出が活発になった。

 さらに,2023年人口規模で中国を超え経済成長が著しいインドには,SEJがすでに展開を始めている。また,インドでは日系コンサルティング会社,「インパクトホールディングス社」が現地企業と合弁により「エッセンシャルズ」を展開し,存在感を示している。

 こうした日系コンビニの国際展開の背景には,受入国側のプル要因と日系コンビニ側のプッシュ要因があるといえる。後発国・地域では,経済成長とともに小売業を含む流通近代化が必要であった。経済が成長するにつれて,国民所得は上昇し,若者や中間層など新たな嗜好をもった消費者が台頭したためである。これらの消費者は,既存の市場や中小小売店で販売している伝統的な消費者向けの商品やサービスでは満足しなくなった。多くは欧米,続いて日本や韓国など先進諸国のライフスタイルを求めるようになり,伝統的な消費と近代的な消費の「消費の二重構造」が生じた。

 この消費のギャップを埋めたのが日系コンビニであった。アジアの国・地域の企業や企業者は,すでに消費の二重構造を経験をして発展した日系コンビニの導入を,他社に先駆けて図ろうとした。代表的なものが,セブン−イレブンの現地パートナーとなった台湾の統一企業やタイのチャロンポカパン(CP)といった食品・日用品製造業者,ファミリーマートのタイでのパートナーであるセントラルなどの小売グループであった。中国の場合には,国有企業がパートナーとなるケースが多かった。

 当初アジアの国・地域側のプル要因に対応していた日系コンビニ側も,次第にプッシュ要因を強め,国際展開を新たな成長戦略と考えるようになった。その理由は,第1に日本では少子高齢化が進み,国内市場の拡大が期待できなくなったこと。第2に2000年代頃までには,日本国内市場は超寡占体制となり,寡占コンビニが他社に先じて国際展開を行い,国外でもシェアを握っておきたいと考えるようになったからである。

 ところが,近年,日系コンビニには進出した国・地域からの撤退や,合弁を解消してFC事業へ変更する動きが多くみられるようになった。ファミリーマートは,韓国や米国からの撤退,タイやフィリピンでのライセンス事業化,中国における頂新との訴訟事件などに直面した。ミニストップも,韓国,インドネシアからの撤退,フィリピンにおけるライセンス事業化,カザフスタン,中国・青島からの撤退があげられる。セブンーイレブンも,再度進出したインドネシアからやはり撤退し,UAEからも短期間で撤退した。

 一方で,日系企業の進出した国・地域においては,現地コンビニの台頭が目覚ましい。インドネシアでは現地の「アルファマート」や「インドマレット」などは急成長を遂げた。韓国,中国,タイなどでも,現地コンビニの台頭が顕著である。

 これら現地コンビニは近年国際展開を始めており,今後日系コンビニの競合企業となることが予想される。韓国のCUはマレーシア,モンゴル,イラン,同じく韓国の「Eマート24」はマレーシア,「GS25」はベトナムに進出している。ベトナムでは,タイのセントラルグループが「C-Express」を傘下に収め,シンガポール系の「ショップ&ゴー」が「ビンマート」を買収した。インドネシアの「インドマレット」はフィリピンに進出している。セブン−イレブン内でも,台湾の統一超商がフィリピンのセブン−イレブンを買収し上海にも進出している。タイのCPオールは,カンボジアでセブン−イレブンを展開し,ラオスへの出店も発表している。

 これまで,日系コンビニは国際競争力を持ちその優位性を保ってきた。しかし,今や国内のみならず進出先国・地域においても,経営環境の変化に合わせた変革が求められている。コンビニとしての組織能力を高め,明確な国際戦略を立案していかなければ,日系コンビニも,かつてのサウスランド社や日本の電機や半導体企業のように競争力を失うことになりかねない。日系コンビニの真の実力が問われるのはこれからであろう。

 この度,以上のような内容を分析し,『日系コンビニエンス・ストアの国際展開―流通近代化を超えて』(文眞堂)として上梓した。国際展開を進めようとしているビジネス人に役立てば幸いである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3017.html)

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