世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
LPガス業界に誕生した新しいプラットフォーム:「_&LPG」プロジェクトがめざすもの
(国際大学副学長・国際経営学研究科 教授)
2023.05.15
2022年11月22日,東京・有楽町の東京国際フォーラムには,見慣れぬ光景が広がった。東京駅方面へ抜ける地下1階通路には,洒落たパラソルヒーターやシリンダーによるオブジェなどのLP(液化石油)ガス関連の展示物が並び,多くの通行人が足を止めて見入っていた。階上の別会場では,ガスメーターの最新製品など,より専門的な展示も行われていた。富士瓦斯(フジガス)社長の津田維一氏が仕掛けた「&LPG EXPO 2022」が開催されたのである。
フジガスは,東京都世田谷区に本拠をおくLPガス会社である。多くの人々は,LPガス事業はガス導管が届かない都市ガスエリア以外の地域でのみ成り立つと誤解しているが,東京都心で順調な業績をあげるフジガスの存在は,そのような謬論への何よりもの反証となる。フジガスの成功の最大の秘訣は,容積当たりの熱量が高い,導管を必要とせず可搬性にすぐれるなどの,LPガス固有のメリットを生かした需要開拓に求めることができる。
例えば,都心のレストランが屋外にも客席を設けたとする(新型コロナウィルスのパンデミックの影響で,屋外席への需要は高まっている)。屋内にはガス導管が届いているから,調理でも暖房でも都市ガスを使うことができる。しかし,ガス導管がない屋外では,そうはいかない。寒い季節の屋外席の暖房には,LPガスを使うパラソルヒーターが重宝されることになる。フジガスは,パラソルヒーター関連のビジネスを手広く行っている。
実は,フジガスのようにLPガス固有のメリットを生かして事業を展開しているLPガス会社は,全国に数多く存在する。フジガスの津田社長は,ここ数年,そのようなLPガス関連事業者間のネットワークづくりに尽力してきた。その成果のひとまずの集大成と言えるのが,「&LPG EXPO 2022」の一環として,同一会場で開催されたセミナーであった。
同セミナーでは,全国津々浦々から,目からうろこが落ちるような斬新なLPガスの活用事例が次々と報告された。津田社長のあいさつを皮切りに,I・T・Oの高野克己専務,北良の笠井健代表取締役,宮古ガスの富山忠彦社長,エネジンの藤田源右衛門社長,フジガスの小林孝一チームリーダー,東洋計器の林英雅営業推進副部長,リンナイの藤垣善昭環境部部長,フジガスの萩尾幸之取締役広域営業本部長,フジガスの酒井朋充チームリーダー,岩谷産業の矢野篤副主任,札幌アポロの井門義貴専務,関電工の野本健司専務,NPO法人LPガス災害対応コンソーシアムの岩間康太氏,アクトの石田謙太郎氏,三ッ輪ホールディングスの尾日向竹信社長,アストモスエネルギーの浜口達弥グリーン戦略室長,北信ガスの市川博信代表取締役,日本瓦斯の柏谷邦彦社長が相次いで登壇し(氏名は登壇順),最後に津田社長が再び立って,全体をしめくくったのである(なお,筆者も,LPガス関連事業者ではないが,登壇の機会を与えられた)。会場は,今日のLPガス産業の最前線で活躍する人々の熱気で,大いに盛り上がった。
「&LPG EXPO 2022」は,フジガスがスタートさせた「_&LPG」プロジェクトの事実上の「旗揚げ」として,開催された。「あなたとLPガスをつなぐプロジェクト」と銘打つ同プロジェクトのホームページでは,「&LPGプロジェクトとは,LPガスの今を知ることでその新たな可能性を探り,未来へ向けたイノベーションを生み出すプラットフォームです。さまざまな業界・組織・地方自治体・個人の方々と共にサステナブルな未来を切り拓きます」,と説明している。そして,「_&LPG」の「_」の部分に,「あなた」「暮らし」「地球」「いのち」「ひと」「未来」という言葉をはめ込んだパネルを用意し,それぞれのテーマとLPガスのかかわりについて,わかりやすく解説している。
LPガスの最大の特徴は,容積当たりの熱量の高さにある。なぜ熱量が重要かと言えば,カーボンニュートラルが達成される2050年の日本であっても,政府の推計によれば,電化率は38%にとどまり,熱を中心とする非電力分野のエネルギー需要が,電力分野のそれを上回ると見込まれるからである。
熱量の重要性は,都市ガス業界の歩みからも明らかである。同業界が気の遠くなるような熱量変更作業を遂行してまでLNG(液化天然ガス)の導入に踏み切ったのは,それまでの石油系ガスに比べて,天然ガスの容積当たり熱量が高いからである。熱量の高さは,供給するガスの容積を縮小させ,導管の建設コストの削減に直結したのである。
都市ガス業界は,現在,同様の理由で,カーボンニュートラルへ向けた「切り札」として,水素と二酸化炭素から合成メタン(e-メタン)を生成するメタネーションの開発を進めている。水素の直接供給に比べてエネルギーロスが大きいことを百も承知でメタネーションに取り組むのは,天然ガスの主成分であるメタンよりも水素の容積当たり熱量が低いため,水素供給に転換した場合には,導管を増設せざるをえず,莫大な追加投資が必要となるからである。都市ガス業界としては,このコスト負担を避けたいのである。
そのメタンガスよりもLPガスの方が,容積当たり熱量はさらに高い。しかもLPガスは,そもそも導管を必要としない。今後,カーボンニュートラルなグリーンLPガスの開発が進めば,LPガスは永遠に使い続けられるエネルギーとなるだろう。「_&LPG」プロジェクトが,そのための「未来への懸け橋」になることは間違いない。
なお,「&LPGカンファレンス」は,2023年4月25日に宮崎で設立総会を開催し,正式に発足した。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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