世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2933
世界経済評論IMPACT No.2933

原子炉リプレースと原子力推進派

橘川武郎

(国際大学副学長・国際経営学研究科 教授)

2023.05.01

 2014年に策定された第4次エネルギー基本計画は,11年の東京電力・福島第一原子力発電所(原発)事故後初めての電源ミックスの策定をめざしたが,果たせなかった。ようやく,1年後の15年になって,30年度の電源構成を「原子力20〜22%,再生可能エネルギー(再エネ)22〜24%,LNG(液化天然ガス)火力27%,石炭火力26%,石油火力3%」とする電源ミックス(電源構成見通し)が,政府決定された。

 この第4次エネルギー基本計画と電源ミックスをめぐる審議過程で,圧倒的多数を占める原子力推進派委員たちは,原発のリプレース・新増設を口にすることはなかった。原子力復権をめざす彼らの当時の目標は電源ミックスにおける原子力比率を20%台に乗せることにあり,原発のリプレース・新増設については,「ほとぼりが冷めるまで持ち出さない方が得策だ」と考えたのである。

 一方,筆者は,原子力比率が過多で再エネ比率が過少であるとの理由で,15年策定の電源ミックスに反対した。ただし,そこに至る審議過程では,原発リプレースを強く主張した。原子力発電を何%であれ使い続けるのであれば,危険性の最小化が大前提となる。そのためには,古い炉よりも新しい炉の方が良いことは,論を俟たない。今後の原子力政策のあり方としては,新しい炉に建て替えるリプレースを進めながら,古い炉を積極的にたたんで,全体として原発依存度を下げていくべきだと考えるからである。

 このような事情をふまえて筆者は,『電気新聞』15年8月27日付の「ウエーブ」欄に,「ひいきの引き倒し」と題する一文を寄せた。そこで問題にしたのは,本来の主張である原発のリプレース・新増設を堂々と語ることなく,目先の「原子力20%台乗せ」が実現したことをもって原子力復権が果たされたかのように振る舞う原子力推進派委員たちの姿勢である。それは,結果として原発リプレースを遠のかせるものであり,原子力の未来を閉ざすことになる。「ひいきの引き倒し」にほかならないと,論じたのである。

 その後,第5次エネルギー基本計画の審議過程から,原子力推進派委員たちは,原発のリプレース・新増設を口にするようになった。ところが,18年策定の第5次エネルギー基本計画においても,21年策定の第6次エネルギー基本計画においても,選挙への影響を重視した政府は,「原発のリプレース・新増設はしない」という方針を崩さなかった。ここで,政府と原子力推進派委員たちとの間には,矛盾が生じることになった。にもかかわらず,リプレース・新増設を語るようになった原子力推進派委員たちは,結局,リプレース・新増設を語らない政府原案を支持して,第5次エネルギー基本計画にも第6次エネルギー基本計画にも賛成票を投じたのである。

 原子力推進派委員たちの「混乱」は,現在も続いている。岸田文雄政権は,原子力に関して,既設炉の運転延長を次世代革新炉の建設より先に具体化する方針を打ち出した。電気事業者から見れば,相対的に低コストの運転延長ができるのであれば,莫大なコストがかかる革新炉建設に取り組むはずがない。にもかかわらず,審議会の場で原子力推進派委員たちは,「既設炉の運転延長と次世代革新炉の建設とは矛盾しない」という政府側の説明をおうむ返しにしている。「ひいきの引き倒し」PartⅡが進行中なのである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2933.html)

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