世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
6次産業化の宮崎Hinataクラスター:インバウンド6,000万人取込みへ
(ITI 客員研究員・放送大学 客員教授)
2023.04.24
6次産業化の基本的な例は,1次産業が農林水産業,2次産業が食品加工産業,3次産業が物流・販売業である。3次産業はマーケティングや研究が更なる方向である。
さて,1次産業の特徴は,この産業なしに人の生命の存続は難しいけれども,付加価値率が相対的に非常に低く,「土地」などを含む自然が大きな制約条件となる。スマホアプリなどと比較して販売数量の拡大も難しい。従って,3次産業との関連で付加価値率を高めることが必要である。そこで,「宮崎県6次産業化クラスター」については,インバウンド年間目標を2030年に6,000万人とする観光産業を1つの軸とすることが考えられる。
本稿では,進展する「宮崎県6次産業化」の具体例を3社の事例で説明する。そして,宮崎県Hinataクラスター形成の現状と課題を明らかにする(注1)。
(1)香川ランチグループ
香川ランチグループは,1次産業として養鶏業を1963年に創業した。その後,2次産業の加工業として1996年に「宮崎デリカフーズ」を設立した。そして3次産業として2013年に「善太郎屋」の物産館をオープンし,スーパーマーケットとしての機能を持たせた。香川憲一社長によれば,6次産業化がブームとなるかなり以前からこのグループはそれを実施してきた(注2)。
鶏1羽から2㎏の肉が得られる。1㎏当たりの鶏肉が5円であり,1次産業の付加価値は10円である。2次産業の加工製品としてグループ企業の美国フーズは,宮崎鶏七輪炭火焼を開発し,付加価値を高めた。「地鶏炭火焼き」は,宮崎県の名産品にまで成長した。また,鶏卵はわずかなヒビでも価値がなくなるため,国内戦略として2020年からのコロナ禍では新商品のパックおでんの販売を伸ばした。この逆境を逆手に取った戦略が成功した。海外販売戦略として,2009年に鮮度を保つための「炭酸ガスパック卵」を開発し,香港への輸出を難産の末に開始した。2018年に6億円を投じて新鶏舎を着工し,2021年のグループ売上高25億円を超えた(注3)。更に,香川社長はイベント事業や観光業などの3次産業への意識が高い。
(2)株式会社加藤えのき
エノキの特徴として,椎茸などと比べて相対的に製品差別化が難しく,また最適な生産規模が相対的に小さい。1973年創業の「加藤えのき」は,エノキの農業生産において長年のノウハウを蓄積し,エノキの特徴に対応した生産から販売までの効率的な経営の「エノキ工場経営」のマザー・モデルを構築した。農産物として,2次産業工業製品の工場生産に近い独自のモデルを確立した。マザー・モデルは,工場生産として比較的どの地域にも適用しやすい。更に,3次産業の販売活動において「顧客満足」を重視する点に特長がある。この企業の市場調査により,販売単位の小袋化を実施し,ニッチの商品販売を追求する。
「加藤えのき」は,マザー・モデルのエノキ工場経営が海外への適用も可能となり,海外進出を検討する。その際に,ほかのエノキ農企業が目指さない,常識にとらわれない海外マーケットを追求する。また,3次産業として,環境のSDGsにも配慮した「研究」事業を重視する。
(3)大塚園
1929年創業の大塚園は,1次産業として茶を生産する。製品の差別化として,茶畑が太平洋沿岸部,小丸川流域,高台の平坦地,尾鈴山の山間部という有利な立地にある。2次産業として,新芽を使用し,普通蒸しの3倍以上の時間をかける「深蒸し製法」という製造工程に特徴がある。3次産業のサービス業として店舗のカフェで製品を販売する。なお,斬新な店舗,そして薫り高い茶に特徴がある。製品の差別化として,有機農業への転換を図る。また,健康志向の消費者向けへの3次産業の「研究」も強化する。
宮崎県観光産業クラスターの差別化製品の課題
宮崎県が世界的に提供できる差別化製品は,観光地として高千穂峡,鵜戸神宮,青島がある。食品としては,宮崎牛,宮崎地鶏である。土産品としてマンゴー,飫肥天ぷら,地鶏炭火焼き,キャビアがあり,飲食として鰻,伊勢海老,カツオなどがある。
ここで,宮崎県の観光産業クラスター形成条件の課題となるのは,次の2点が挙げられる。第1に,高速道の整備,新幹線の整備,航空網の交通整備などによる「輸送費」削減である。第2に,他にはない観光資源の差別化だ。
以上を総括して言えることは,宮崎県内の各地域の「産地」の差別化である。各地がその特性を生かした産地ブランドを強化する。そして,県全体の産地を「パッケージ化」して差別化された異質財の宮崎県6次産業化クラスターを形成する。これを世界に“Hinataクラスター”として売っていく。
[注]
- (1)6次産業化については,次を参照。朽木昭文(2017)「マクロ経済と産業連関表から見たアジア経済」,河合明宣・朽木昭文編著,『アジア産業論』,放送大学。
- (2)2022年12月21日,3社について朽木昭文・中村哲也・道休誠一郎ヒアリング。
- (3)養鶏数33万羽,香港向け月間30トン輸出(日本経済新聞2018年3月10日)
関連記事
朽木昭文
-
[No.3561 2024.09.16 ]
-
[No.3472 2024.07.01 ]
-
[No.3463 2024.06.24 ]
最新のコラム
-
New! [No.3581 2024.09.30 ]
-
New! [No.3580 2024.09.30 ]
-
New! [No.3579 2024.09.30 ]
-
New! [No.3578 2024.09.30 ]
-
New! [No.3577 2024.09.30 ]