世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2835
世界経済評論IMPACT No.2835

中国住宅バブル対策の綱渡り

童 適平

(独協大学経済学 教授)

2023.02.06

 中国国家統計局は過日,中国不動産市場に関する衝撃なデータを発表した。2022年全国住宅販売面積と販売金額はそれぞれ114,631万平米と116,747億元で,前年比41,901平米(前年比26.8%減)と45,983億元(同28.3%減)の減少となった。これは,それぞれ2015年(112,412万平米)と2017年(110,240億元)の規模まで減退したことになる。

 この住宅販売の低調は,「三本のレッドライン」(契約金や預り金を除いた資産負債比率は70%以下,純負債比率は100%以下及び現金—短期債務比率は1以上)の政策で,債務縮小が要求されている不動産開発会社には泣き面に蜂である。販売の低調で資金が回収できなければ,債務の返済もできないので,「三本のレッドライン」に触れた不動産開発企業は減少するどころか,むしろ増加してしまった。

 これに対して不動産開発企業は,住宅投資を減少させることで反応した。同じ国家統計局の発表によれば,2022年,住宅投資額は100,646億元で,前年比9.5%減少した。新規住宅着工面積と竣工面積はそれぞれ88,135万平米と62,539万平米で,前年より39.8%と14.3%の下落となった。この意味では,中国政府の「住宅は住むためのものだ」という住宅政策が奏功した現れとも言えるかもしれない。

 しかし,住宅販売の低調と住宅投資の低迷は経済の成長に陰りを落とした。中国経済成長の主役は投資だからである。中でも不動産投資は重要な役割を演じた。経済の成長によって国民の支持を得た政府としては,成長低下は深刻な事態である。

 更に,住宅政策の一端を握る「三本のレッドライン」という不動産開発企業資金調達制限政策もジレンマに直面している。中国不動産開発企業は多く「高負債経営」(高い借り入れ)というビジネスモデルを採用した。2020年全国不動産開発企業の平均負債比率は80.7%に上ったので,高負債経営是正目的の「三本のレッドライン」政策は必要不可欠である。しかし,この政策をまじめに実行すれば,不動産開発企業の経営は圧迫されることになる。世間を騒がした「恒大集団のデフォルト」が代表するように,2021年から数多くの不動産開発会社が債務不履行に追い込まれた。銀行や投資者への債務不履行は,金融不安を招きかねないし,建設会社への債務不履行は工事の遅延をもたらし,住宅ローン返済ボイコットという社会運動まで引き起こし,社会不安の火種となった。「三本のレッドライン」の打ち出しタイミングはすでに遅すぎたかもしれない。いずれ破裂する住宅バブル抑制に先に手を打たなければならないが,下手をすれば,この住宅バブルをいま直ぐ破裂させてしまいかねないことが,この一年あまりの間「三本のレッドライン」を実施して分かった。

 このように,住宅バブル膨張抑制政策を続け,今すぐバブル破裂のリスクを冒すか,抑制政策に手を緩め,膨張を見送り,更なる大きな破裂を待つかという短期と長期の選択肢になる。当然,長期が選択された。経済成長が続けば,バブルそのものが消えるかもしれないと一縷の望みがあるからである。

 まずは,住宅の販売促進に手を打った。1月13日に開催された中国人民銀行記者会見によれば,2022年12月に中国人民銀行と銀行保険業監督管理委員会は共同で2022年第4四半期から1件目の住宅ローン金利下限規制を緩和する通達を出して以降,12月には全国平均新規住宅ローン金利は2008年以来の4.26%に引き下がったとしている。各地域政府に住宅購入自己資金比率規制を委ねた。

 続いて不動産企業融資規制を緩和した。「住宅の引き渡し遅延対策特別融資」として,2022年に不動産開発企業に2000億元供与したのに続いて,今年さらに1500億元の供与増加を決定した。9月から11月まで不動産開発融資を前年比で2000億元増加した。

 そして,不動産企業の債券発行,特に債務満期の借換債券発行規制を緩和した。第4四半期に1200億元不動産企業債が発行され,前年比22%の増加となった。

 更に,内容はまだはっきりしないが,優良不動産企業への融資増加や経営不振不動産企業の資産債務を受け継いだ優良不動産企業の「三本のレッドライン」を緩和するなどの内容を盛り込んだ「優良不動産開発企業の資産負債表改善プログラム案」が考案されたそうである。暫くは綱渡りの住宅政策が続きそうだ。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2835.html)

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