世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2725
世界経済評論IMPACT No.2725

1.6委員会,トランプ前大統領に召喚状

滝井光夫

(桜美林大学 名誉教授)

2022.10.31

 暴徒による2021年1月6日の議事堂襲撃事件を調査している下院特別調査委員会(以下1.6委員会)は,10月13日,これまでと同じ形式で9回目の公開公聴会を開催した(注1)。9月はハリケーン・イアンの来襲で開催できなかったため,10月13日が夏休み明け後の最初の公聴会となった。中間選挙後,レームダック会期中に開催されなければ,今回が1.6委員会の最後の公聴会となる。

10月13日の公聴会

 2時間半に及んだ今回の公聴会でも,驚くべき事実が次々に明らかにされた。①投票日から半年も前の2020年7月には,トランプ前大統領(以下,トランプ)が落選した場合,「選挙は盗まれた」と宣言する計画が立てられていた。②メディアがバイデン勝利と報じた4日後,トランプはアフガニスタンとソマリアからの米軍の即時撤退を命じる文書に署名した。③大統領を警護するシークレット・サービスには1月6日以前から,ホワイトハウス前の集会は暴動に発展する可能性があると警告されていた。④集会当日,トランプは暴徒に加わろうとした。⑤同日,シークレット・サービスは暴徒が金属探知機を避けているのは武装しているためだとの内部情報を受けていた。

 さらに,トランプは補佐官等から暴徒を制止するよう要請されたが,これを無視してホワイトハウスで暴動の様子をテレビで見ていた。この間,議会から南に3km離れたフォート・マクネア陸軍基地に避難していたシューマー上院院内総務とペロシ下院議長は,選挙人を確定するための両院合同会議の再開について携帯電話でペンス副大統領と連絡を取り合っていた。この状況は,ペロシ議長の娘(ドキュメンタリー映画製作者)が撮影し,その映像が公聴会室のスクリーンに映し出された(注2)。この映像は初公開で筆者もこれを見て驚いたが,その後CNNが別の部分を放映した。

 そして公聴会の最後に,9人の委員全員の賛成でトランプの召喚が決議され,翌週の10月21日金曜日,召喚状がトランプに送付された。

証人喚問の期限は11月14日

 トンプソン委員長とチェイニー副委員長が署名した10ページの召喚状(本文4,添付文書6ページ)によると,1.6委員会は調査の結果,選挙に対する虚偽の主張,投票結果・選挙人の改変,議事堂襲撃などすべての事件に中心的役割を果たしたのがトランプであり,事件核心の解明にはトランプの証言と資料の提出が必須だと主張している。また,提出を求めている資料は,2020年の大統領選挙結果を覆す作業に関連した2020年11月3日から2021年1月6日までの(注3)電話,文書,暗号化した連絡,イーメール,写真,ビデオを含む資料で,19項目の内容が3ページに亘って列挙されている。

 召喚状に記された資料の提出期限は2022年11月4日,宣誓証言は同11月14日から必要に応じて数日としている。また,他の証人と同様にトランプが憲法修正第5条(注4)を行使する場合は,速やかに1.6委員会に通知することを求めている。

 召喚状は,歴代大統領のうちルーズベルト,トルーマン,フォードなど前職の大統領7人,リンカーンとフォードの現職大統領2人が議会の召喚に応えてそれぞれ証言し,さらにニクソン大統領を含む3人の前・現職大統領が資料を提出していると述べ,最後に「1.6委員会は本召喚状に対する貴殿の協力に期待している」と書いている。

 果たして,トランプは1.6委員会の召喚状に応じるだろうか。これまで下院本会議は,1.6委員会が発出した召喚状による証言または資料提出を拒否した4人を議会侮辱罪で司法省に告訴している。4人のうち司法省が告発したのはトランプの大統領補佐官であったバノンとナバロの2人。バノンは10月21日に有罪となり,収監4ヵ月,罰金6500ドルの判決が下された。ナバロに対する判決は11月に予定されている。しかし,司法省は最後の大統領首席補佐官メドウズとスキャビーノ補佐官の2人については,自発的な情報提供を評価し,告発を見送った(注5)。

 トランプが召喚を拒否すれば,下院本会議はトランプを議会侮辱罪で司法省に告訴し,トランプは司法省から告発される。トランプは告発に反対し,法廷に訴えるのは確実だが,裁判は最高裁まで争われるだろうから,最終的な判決が確定されるまでに1年はかかると現地紙は書いている。しかし,11月の中間選挙で共和党が下院で多数党となれば1.6委員会は来年1月3日で廃止される。果たして,レームダック会期中に民主党が多数党である下院は,トランプを司法省に告訴するだろうか。

 なお,トランプは10月13日付でトンプソン1.6委員長宛に14ページの書簡(本文4,添付文書10ページ)を出している(写しを8委員に送付)。この書簡は日付の下に大文字で「平和にそして愛国的に」と書かれ,本文の冒頭にこれも大文字で1行,「2020年大統領選挙は不正に操作され,盗まれた!」(THE PRESIDENTIAL ELECTION OF 2020 WAS RIGGED AND STOLEN!)と大書している。

 「平和に愛国的に」の意味は不明だが,冒頭の1行の大文字からわかるように,トランプはこの書簡で従来の主張を繰り返し,1.6委員会の調査結果を痛烈に非難した。しかし,召喚状に応じるか否かには全く触れていない。10月14日付のワシントンポストは,この書簡を「自己陶酔的で妄想的だ」と書いている。また10月13日の公聴会後,トランプは自分のメディアTruth Social に,「なぜ何ヵ月も前に召喚状を出せなかったのか。最後の最後になって出したのは1.6委員会の完全な失敗だ。米国を分断しようとするもので,世界の笑いものだ」と書いている(注6)。

 トランプに近い人物によると,トランプはライブの証言であれば受けてもよいと語り,1.6委員会は証言の様式にはこだわらないと示唆しているという。しかし,トランプの弁護士はトランプに証言を許せば何を言うかわからない,偽証罪を犯すかもしれないと懸念しているという(注7)。このため,トランプは結局,召喚を拒否する可能性が高い。その場合,まず下院本会議の対応が注目される。

[注]
  • (1)1.6委員会の正式名称はThe Select Committee To Investigate The January 6th Attack On The United States Capitol,全8回の公聴会の概要は,前半は本コラム2022年月29日付 No.2659,後半は同9月5日付No.2660参照。
  • (2)ワシントンポストの記事House Jan. 6 committee votes to subpoena Trump in finale surprise (Oct. 13, 2022) およびJan. 6 hearing shows Trump knew he lost – even while claiming otherwise (Oct. 14, 2022)による。
  • (3)対象期間は資料によって異なる期間が指定されている。
  • (4)この場合は同条の自己負罪条項(self-incrimination clause),「何人も刑事事件において自己に不利な供述を強制されない」ことを意味する。
  • (5)ニューヨークタイムズの記事Jan. 6 Panel Issues Subpoena to Trump, Setting Up Legal Battle Over Testimony (Oct. 21, 2022) による。召喚状の原文は同記事中のリンクから検索できる。
  • (6)注(2)の最初の記事と同じ。
  • (7)注(5)と同じ。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2725.html)

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