世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2659
世界経済評論IMPACT No.2659

議事堂襲撃はトランプ再選工作の一環:1.6委員会の公開公聴会結果

滝井光夫

(桜美林大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2022.08.29

今夏6,7月の2ヵ月で8回の公開公聴会

 2021年6月30日の下院決議によって発足した米国議事堂襲撃事件特別調査委員会(以下,1.6委員会)は,非公開の公聴会開催などにより調査を進めてきたが(本コラム2022年6月13日付No.2566参照),調査結果を国民に周知するため,6月9日から7月21日まで合計8回の公開公聴会(注1)を開催した。その結果明らかになったのは,2021年1月6日の暴徒による議事堂襲撃は決して偶発的な事件ではなく,2020年大統領選挙の結果を覆し,トランプ前大統領(以下,トランプ)の再選を実現するための,一連の組織立った行動の一環であったことである。

 公開公聴会は9月から再開すると正副委員長が明言しているため,今夏の公開公聴会で何が議論されたのか,改めて1回ごとにその内容を回顧しておきたい。なお,通常の公聴会は関係者の宣誓証言と質疑が中心となるが,今回の公聴会はそれだけにとどまらない。会場そのものが広く(注2),フロアーの前半分には大きな複数の机に報道関係者,後半分には傍聴人など,毎回100人以上が出席した。正面の一段高い席にトンプソン委員長,チェイニー副委員長を囲んで全9人の委員(民主党7人,共和党2人)が並び,その背後に映像などを映し出す大きなスクリーンが天井から下げられた。公聴会としては異例の形式である。

第1回(6月9日・木):事件の全貌を映像と証言でビビッドに再現

 トランプに頼まれたといプラウド・ボーイズの証言とその組織的な議事堂襲撃の映像,外傷性脳損傷を負った議事堂警察官の生々しい証言,選挙は盗まれたというトランプの主張をイバンカ夫妻は信じていなかったという未公開ビデオなどが紹介され,「2020年の大統領選挙結果を覆し,政権移行を阻止しようとした現職大統領による未曾有の陰謀」(トンプソン委員長),「米国の民主主義に対する驚くべき攻撃の全容」(NYタイムズ)が明らかにされた。「トランプは虚偽の情報を広め,選挙が盗まれたことを国民に納得させるために,無謀な努力を続けた」と,チェイニー副委員長は述べた。

 またワシントン・ポストのジェニファー・ルービン記者は,第1回公聴会から学んだ点として,①暴動の深刻さ,衝撃的な暴力行為,②選挙結果を逆転させようとするトランプの首尾一貫した行動,③非常に多くの共和党議員の協力,④1.6委員会の民主主義を守ろうとする真摯さ,を挙げた。

 なお,この公聴会で,トランプ政権の閣僚が憲法修正25条を発動し,トランプを大統領職から解任することも検討したことが明らかにされた(注3)。

第2回(6月13日・月):注目されたバー前司法長官の発言

 2回目の公聴会では,「選挙は不正に行われた」というトランプの執拗な主張が,司法省,裁判所,トランプ陣営の選挙顧問,サイバーセキュリティ専門家,ドミニオン投票機の検証などによってすべて虚偽であることが改めて明らかにされた。「選挙前は理路整然と大統領と話せたが,選挙後は耳を傾けていないようだった。トランプが選挙は不正だと本当に信じているなら,大統領は現実から切り離されている」というバー前司法長官(注4)の録画証言が注目された。

第3回(6月16日・木):ペンス議長に選挙人を変更させる計画

 この公聴会では,バイデン,トランプ両候補の大統領選挙人数を確定する2021年1月6日の両院合同会議の議長を務めるペンス副大統領(以下,ペンス)に圧力をかけ,トランプが再選されるように選挙人数を変更させる計画の顛末が明らかにされた。

 この計画を考案したイーストマン顧問弁護士さえ成否を疑問視し,ペンスも選挙人数を変更する権限は議長にはないと強硬に反対した。しかし,トランプは執拗に計画の実行を迫り,1月6日の朝,ペンスを「弱虫」と非難し,同日午後2時過ぎ,議事堂襲撃の直前にも「勇気がない」と罵った。暴徒がペンスを吊るせと叫んで議事堂に侵入し,ペンスを探したが,ペンスは辛くも階下に逃れた。その時,暴徒はペンスから僅か40フィート(12m)に迫っていたという。

 なお,この公聴会では1887年選挙人計算法の法改正の必要性をチェイニー副議長が提案し,一時議論となった(注5)。

 

〔以下,第4~8回の公聴会は次回に報告〕。

[注]
  • (1)初回と8回目の公聴会はより多くの国民が視聴できるように午後8時に開始され,生中継された。また公聴会の模様は全米のメディアが大量に報道した。YouTubeおよび1.6委員会のホームページですべての公聴会の状況が今でも視聴できる。
  • (2)米国の国会議事堂(the Capitol)は首都ワシントンの小高い丘(The Capitol Hill)に立つ。議事堂と通りを隔てて北側に上院会館,南側に下院会館が各3棟あるが,公開公聴会が開かれたのは下院の最高裁寄りのキャノン会館。なお,会館は地下鉄道(上院は2路線,下院は1路線)で議事堂と連絡している。
  • (3)憲法修正25条(1967年確定)第4節により,副大統領および行政各部の長官の過半数の賛成によって大統領は解任される。
  • (4)トランプ政権では司法長官は正式長官が2人,代行が4人。戦後の政権では代行を含めた司法長官の人数は最も多い。William Barrはブッシュ(父)政権の司法長官でもあった。
  • (5)1887年選挙人計算法(Electoral Count Act of 1887)については本コラム(2022年6月20日付No.2575)参照。その後上院では超党派で法改正案がまとめられたが,法案審議には至っていない。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2659.html)

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