世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2579
世界経済評論IMPACT No.2579

安倍氏導入インフレ目標。物価高下の金融緩和に拘る黒田日銀

小原篤次

(長崎県立大学国際社会学部 准教授)

2022.06.20

 経済政策は,(1)財政政策,(2)金融政策,(3)競争政策の3つに分類できる。貿易や金融自由化,混合医療などが競争政策に含まれる。

 1970年代,変動相場制に移行,国際的な金融取引が拡大,金融政策の重要性が高まった。欧米経済学の潮流も財政より金融を支持した。

 金融政策は定期会議のほか,金融危機があれば,臨時の会合を開き,金融政策を変更できる。議会承認は不要である。つまり,内外情勢,物価や景気動向などから,機動的に政策を変更できるのが強み。タイミングや速度が重要である。

 現実の金融政策を観る。異例の金融緩和は2012年9月,安倍晋三氏が自民党総裁選挙で訴えたことから始まる。物価目標を掲げるための日銀法改正にも言及した(その後,改正はない)。2013年1月,政府と日銀は,合意文書を結び,「物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする」と明記した。その後,首相が2度,交代しても,改定も廃止もされていない。

 日銀は,大規模な国債買い入れのほか,ファンドを通じて株式や不動産も買い入れてきた。このように,日銀が異例の政策に踏み込みながら,必ずしも政府が一体とは言えない。例えば,企業の内部留保が積み上げている。それを投資に促す政策が不十分だ。さらに,官邸主導で携帯電話価格の値下げを求め,実現するなど,デフレ脱却と経済成長への取り組みが一貫していない。

24年ぶりの円安と2%の物価水準

 さて,昨今の物価上昇の中,アメリカ,イギリス,さらに欧州中央銀行も利上げに転じている。6月17日の日本銀行金融政策決定会合は,「消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は,当面,エネルギーや食料品の価格上昇の影響により,2%程度で推移するとみられるが,その後は,エネルギー価格の押し上げ寄与の減衰に伴い,プラス幅を縮小していくと予想」とし,これまでの金融政策を維持している。

 つまり,日銀は,前例のない金融緩和政策が目標にしていた2%に達したものの,続かないとみている。理由は国内ではなく海外要因で,しかもエネルギー価格やウクライナ情勢など特別で一時的な要因だと考えている。

 日銀の提案に反対は,元三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛士委員1人。「長短金利操作」については,「コロナ後を見据えた企業の前向きな設備投資を後押しする観点から,長短金利を引き下げることで,金融緩和をより強化する」と主張。なお,片岡委員は2017年の委員就任後,開催された合計37回の政策決定会合で常に反対,金融緩和の徹底を求める。アベノミクスブレーンの浜田宏氏と近い,リフレ派の哲学がぶれていない。

 4月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は,前年同月比2.1%上昇だ。伸び率は消費税増税の影響を受けた2015年3月以来,約7年ぶり。増税の影響を除くと,2008年9月(2.3%)以来,約13年半ぶりの水準である。円相場は,1ドル=135円半ばを記録,1998年10月以来,24年ぶりの円安水準となった。円安は輸入価格を引き上げ,物価上昇要因となる。

 6月18日の日経電子版によると,世界の中央銀行による政策金利の引き上げが2022年1~6月期で延べ80回に達し,過去最多になっている。日本と海外との金利の拡大は円安を加速させる原因となっている。

 野村総合研究所の木内登英氏(注1)は6月10日のWEBレポートで,「1ドル140円までの円安進行も覚悟しておく必要がある」と警鐘を鳴らす。また,木内氏は4月8日のレポートでは,「本格的な金融政策の正常化策に着手するのは,来年の黒田総裁退任後になる」と予想している。

 黒田総裁の任期は2023年4月8日までである。最悪,全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は,2%前後の水準が長引く可能性もあり,注視する必要がある。

 6月17日の記者会見で,黒田総裁は笑みを見せなかった。その代わり,ボールペンを回す姿が見られた。大蔵省時代の上司・行天豊雄は,黒田氏の笑みを魅力にあげていた。心中はいかがなものだろうか。

 日銀は金融緩和の出口のスキームやプロセスを語ってこなかった。金融政策の変更に政府との合意文書が足かせになってはいけない。政府との合意から,黒田総裁は金融政策を転換できないのであれば,政府が主導すべきだろう。日銀の裁量権が残されているのであれば,段階的に「異例の金融緩和」からの修正を本格化するタイミングである。

 白川総裁は合意後,任期途中で退任している。黒田総裁も,任期途中の退任という戦術も残されている。もちろん,お得意の笑みで周囲を引き込み,調整・実行する方法もあるだろう。

[注]
  • (1)木内氏は,白川総裁時代,民主党推薦で日本銀行政策委員会審議委員に就任。任期満了後,片岡氏と交代。
[参考文献]
  • 伊藤隆敏・吉川洋「経済学者グループ緊急提言:経済再生 非伝統的手段も」『日本経済新聞』2003年3月19日付。
  • 行天豊雄「冷徹な頭脳と温かい微笑 日本銀行総裁・黒田東彦」『日経ビジネス』2015年12月28日付。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2579.html)

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