世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
経済不確実性が高まる中での日中韓経済連携
(千葉大学 特別研究員)
2022.04.25
中国国家統計局は4月18日付の報道資料で,第1四半期におけるGDP速報を前年同期比で4.8%増加したと発表した。李克強総理は3月5日第13回全国人民代表大会第5回会議で行った「政府工作報告」で経済成長率を5.5%前後に設定した。また,国際通貨基金は今年(2022年)1月発表の「IMF世界経済見通し」では4.8%,4月発表の「IMF世界経済見通し」では4.4%と下方修正して予測している。IMFの予測に近いが,政府目標とは少し異なる結果になった。
上述の中国国家統計局のGDP速報は「第1四半期国民経済のスタートは全般的に安定」というタイトルで発表された。報道資料は9つの部分に分けてその理由を説明しているが,6番目では貿易について「財の輸出入は比較的に速い増加,貿易構造は引き続き最適化」と説明している。第1四半期,輸出入総額は9兆4,151億人民元となり前年同期比で10.7%増加した。そのうち,輸出は5兆2,260億人民元で前年同期比13.4%の増加となり,輸入は4兆1,891億人民元で前年同期比7.5%の増加となり,貿易黒字は1兆369億人民元に達したという。
中国海関総署の4月15日付けの報道資料「中国と主要貿易相手国は輸出入増加を達成―第1四半期の貿易は安定と力強さで始まる」では,中国は主要貿易パートナーとの間で輸出と輸入共に増加となり,中国の主要貿易パートナー上位5カ国・地域を取り上げている。ASEAN,欧州連合,米国,韓国,日本との貿易額(括弧中は伸び率)はそれぞれ1兆3,500億人民元(8.4%増),1兆3,100億人民元(10.2%増),1兆1,800億人民元(9.9%増),5,742億人民元(12.3%増),5,710億人民元(1.8%増)で,ASEANが上位1である。韓国の伸び率は12%を超えている。また,「一帯一路」沿線国家(16.7%増)およびRCEP貿易パートナーとの貿易も増加している。RCEPの正式な発効により,中国とASEANとの貿易は緊密になり,ASEANとの貿易がRCEP全般の47.2%を占めているという。RCEPの恩恵をいちはやく取り込んだと言えよう。ところで,上位5カ国・地域を詳しくみると,第1位はASEAN,第2位は欧州連合なので,国レベルの主要貿易相手国としては外れることにもなる。ゆえに中国の主要貿易相手国の上位3カ国は米国,韓国,日本となる。更に,韓国と日本を現在協議中の日中韓FTAを前提に同じグループにすると,貿易額の合計は1兆1,452億人民元で,米国の貿易規模に近付くことになり,日中韓FTAの重要性が再び浮き彫りになってくる。
地域的な包括的経済連携(RCEP)協定は2020年11月15日に15カ国で署名され,2022年1月以降順次発効しつつあり,周知の通り,2022年1月1日に日本,中国,ブルネイ,カンボジア,ラオス,シンガポール,タイ,ベトナム,豪州,ニュージーランドの10カ国で,2月1日に韓国,3月18日にはマレーシアも発効した。インドネシア,フィリピン,ミャンマーの3カ国(2022年4月21日現在)はRCEP協定の未発効国であり,批准書などを寄託した60日後に発効することとなる。
一方で,韓国貿易協会の4月15日付けの貿易ニュース―「輸出の未来に新しい伏兵が次々と。―コロナ再拡散などで中国輸入需要激減」によると,韓国の輸出の四分の一を消化する,主要輸出市場である中国において経済成長率の低下とCOVID-19の蔓延によるロックダウンなどにより,韓国の対中国輸出が急激に下落しているという。また,ロシアのウクライナ侵攻が発端となるグローバルサプライチェーンの危機に加えて,グローバルなインフレと世界経済の低迷が進行し,主要市場での輸入需要の縮小が避けられないという。韓国の対中輸出はすでに影響を受け,4月1日から10日までのそれは前年同期比3.4%減となり,対香港輸出は39.9%減となった。韓国の対中輸出は,3月には前年同期比16.6%増と順調であったが,4月に入って一気に逆転したそうだ。
上述の中国国家統計局の第1四半期におけるGDP速報で公表したデータでも,中国の3月輸出は12.9%増加するが,3月の輸入は1.7%減少したことを挙げている。第1四半期の輸入は7.5%増加したが,3月の輸入減に足を取られなければ輸出と同様に10%以上の増加の可能性もある。
中国の輸入の減少は去年の下半期から始まった不動産市場の縮小,COVID-19の蔓延による上海などのロックダウン,ロシアのウクライナ侵攻など国内外の要因が挙げられる。上述4月発表の「IMF世界経済見通し」における経済成長率の下方修正は,中国のみのことではない。IMFは世界経済を4.4%から3.6%へ,米国を4.0%から3.7%へ,欧州連合を3.9%から2.8%へ,日本を3.3%から2.4%へ,ASEAN5カ国を5.6%から5.3%へ,そして韓国を3.0%から2.5%へと下方修正している。IMFは「戦争が経済回復を抑制する」としているが,燃料,食料,原材料などの物価上昇が急激に加速化している。
本来はRCEPの発効により域内の貿易・投資の自由化,円滑化のレベルが向上し,RCEPのメンバー国および世界経済に大きなメリットを期待しているところであった。ところが,不確実性が増えている現状ではRCEPの発効メリット以外に他のメリットの創出が必要となる。グローバル経済の現状を踏まえると,日本は経済連携を更に強化し,日中韓FTAのように,実現すれば日中韓のサプライチェーンの緊密な関係がもたらすメリットにも大いに注力すべきであり,今後の動向に期待したい。
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