世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2454
世界経済評論IMPACT No.2454

デジタル田園都市構想による“産業集積政策”:「新しい資本主義」と「中国の特色ある社会主義」

朽木昭文

(放送大学 客員教授)

2022.03.14

 前掲の拙稿(2022年3月7日付 No.2449)では「日本に参考となる中国の成長戦略を俯瞰した。この「中国の特色ある社会主義」の成長戦略は,(1)産業集積政策,(2)産業政策,(3)地域統合の3戦略から構成されている。これを以下で日本の「新しい資本主義」の参考にしてみよう。

(1)-1「産業集積政策」

 中国は,2013年の上海自由貿易試験区から2020年の「北京自由貿易試験区」まで全国21カ所を設置した。これは,北京だけでも以下の3つの地域となっている。中関村地域,首都国際空港地域,大興国際空港地域となっている。日本の産業集積政策は,中国全体のすべての産業集積と競争できないことは明らかであり,例えば,北京自由貿易試験区とは,競争・協調することが必要となっている。

 日本は,国全体として自由貿易試験区に相当する区を設立し,そこで産業集積を形成する。集積政策の1つがデジタル田園都市構想となる。

(1)-2 集積のためのインフラ整備

 中国の集積政策の手段の1つが「新型インフラ建設」である。新型インフラとは5G,IoT,AI,道路交通システムなどのためのインフラ建設である。中国の特長は実験・実証している点である。例えば,デジタル人民元,百度の仮想現実(VR)のデジタル従業員,インターネットプロトコル・バージョン6など多数ある。

 日本は,産業集積に必要な「次世代のインフラ」を日本の成長戦略に合わせて建設すべきである。それは,産業政策で選択する産業に依存する。

(2)「産業政策」

 中国は,産業政策の成功もあり,2020年のフォーチュン世界500大企業においてアメリカの企業数を超えた。産業政策は,近年では日本やアメリカなどの国で半導体などに採用されてきている。また,第4次産業革命といわれる現在の時期では産業政策のピッキング・ウナー(重点産業)の選定が比較的容易になっている。キーワードは,デジタル経済でグリーン経済であることはよく知られている。

 中国の産業政策での重点産業は,具体的にいうと,次世代情報技術産業,インテリジェント・新エネルギー自動車産業,省エネ・環境保護産業,デジタル・クリエイティブ産業などである。

 日本の重点産業もグリーン経済とデジタル経済であるべきことは変わらない。ただし,現在議論されている日本の目標は,短期的に世界からの遅れたデジタル化を取り戻すことである。長期の2035年をみた「次世代」デジタル産業の育成を視野に入れなければならない。

(3)「地域統合」

 一帯一路建設は,地域統合によるグローバル・バリューチェーンの形成である。また,中国は,RCEP(地域な包括的経済連携)協定を活用する。更に,2021年に地域統合TPP(環太平洋パートナーシップ)協定への加入を申請した。

 日本の産業集積政策は,地域統合と連動させ,集積と集積を地域統合と連結することによりグローバル・バリューチェーンを形成する。

4.新しい資本主義の集積政策

 集積政策の基本は「デジタル田園都市構想」となる。6つの中核都市としてJR駅を中心とした再開発事業をすでに実施し,福岡,大阪,名古屋,東京,仙台,札幌の「イノベーション都市集積」を形成する。それぞれは,各地域の「衛星都市」と連結して集積政策を実施する。

(1)集積のスイッチ:①交通インフラの整備,②異質財・サービスの生産,③人材の育成・招致

 空間経済学によれば,集積の形成開始の「スイッチ」となる政策手段は,次の3つである(Kuchiki(2021a, 2021b)で提示)。

  • ①「交通インフラ」は,輸送費の削減であり,空港,高速鉄道,道路などが交通インフラに含まれる。6イノベーション都市の各空港は,世界の空港とLCC(ローコスト・キャリアー)をつなげる。また,東京・大阪間の超電導リニア中央新幹線の早期完成は有効である。
  • ②「異質財・サービス」は,優先順位第1の課題である。集積の競争優位のためには,それぞれの「イノベーション都市集積」で他の都市にはない「異質財・サービス」が不可欠である。それぞれの都市集積のブランディング戦略の中心となる。
  • ③「人材」については,集積形成プロセスにおいて育成と招致の両方が必要である。イノベーションに関して,基礎研究,応用研究,製品研究ごとに人材が必要である。グローバル調達を原則とする。

(2)連結性強化の地域統合によるグローバル・バリューチェーンの形成

 地域統合は,コロナ禍で忘れられているが,それなしのデジタル田園都市構想は長期にはない。各地域の集積を連結して地域統合による日本を含めたバリューチェーンの形成である。

 RCEPを活用する。また,TPPに中国,台湾,英国が加盟申請している。TPPも日本は生かしていく必要がある。

 日本の抱える根本問題は,依然としての日本人の内向き思考である。グローバル思考に転換することが長期政策である。そのために地域統合そしてグローバル化は,集積政策にとっても欠かせない。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2454.html)

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