世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2370
世界経済評論IMPACT No.2370

中国のCPTPP加入申請

石川幸一

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2021.12.20

参加には高い障壁

 中国がCPTPPに加入するためにはCPTPPの高いレベルの自由化とルールを満たさねばならない。大きな課題は,①国有企業,②電子商取引,③労働についてのルールである。国有企業については,①国有企業が商業的考慮に従い行動すること,②国有企業への非商業的援助により他の締約国の利益に悪影響を及ぼしてはならないことが規定されている。電子商取引については,①電子的手段による国境を越える情報の移転,②自国の領域内でビジネスを遂行するための条件としてコンピューター関連設備を自国領域内に設置することを要求することの禁止,③ソースコードの移転要求の禁止が規定されている。労働については,ILOの労働における原則と基本的権利(結社の自由,団体交渉権の実効的な承認,強制労働の撤廃,児童労働の廃止,雇用職業に関する差別の撤廃)を自国の法律などで採用・維持することが規定されている。

 ほかにも,トランプ政権が問題にした技術の強制移転防止は,投資章で明示的に禁止されており,輸出税の新設・維持の禁止,地方政府の投資措置に対する国家メカニズムの導入,地理的表示の保護,透明性および腐敗防止など中国を想定して導入されたと考えられる規定は多い。

障壁の一部はクリア

 中国はRCEPでCPTPP加入への障壁の一部を乗り越えている。電子商取引では,①データ・ローカライゼーション(コンピューター関連設備を自国の領域内に設置する)を要求してはならない,②データ・フリー・フロー(情報の電子的手段による越境移転)を妨げてはならない,を中国はRCEPで認めた。③ソースコードの移転要求の禁止は規定されなかったが,対話を行い発効後の見直しにおいて対話結果について考慮すると規定された。投資では,FTAおよび投資協定で一切認めていなかった設立時の内国民待遇をRCEPで初めて認めた。特定措置の履行要求(パフォーマンス要求)の禁止では,ロイヤリティ規制の禁止,技術移転要求の禁止をFTAで初めて認めた(注1)。

 中国EU包括的投資協定(CAI)では,①中国はILO条約の批准に向けて努力すること,②国有企業が物品またはサービスの売買を行う際,商業的考慮に従い行動し,差別を行ってはならないことが規定されている(注2)。

 そのため,国有企業への非商業的援助の禁止およびソースコードの移転要求の禁止という障壁は残り,ILO条約の批准は努力目標となっている。とくに困難な障壁は国有企業への国による優遇や支援の禁止である。中国は憲法で国有経済を国家経済の主導的力と規定し,国有企業への優遇を強化しているからだ。

例外を認めているCPTPP

 困難な障壁については,中国は例外や移行措置などの特別扱いを求める可能性が強い。CPTPPは例外が認められているからだ。FTAは例外や実施を遅らせる移行期間などが規定されており,RCEPでは主にカンボジア,ラオス,ミャンマー,ベトナムを対象に移行期間など特別待遇が規定されている。CPTPPも例外措置が規定されている。たとえば,国有企業および指定独占企業については日本とシンガポールを除く国に例外が認められている(注3)。高いレベルの自由化の例外は日本の米・麦・乳製品など聖域5品目の関税撤廃の例外化である。ほかにもTPPの例外,原則の緩和,特別扱いは多い(注4)。CPTPPで例外措置となっているのは各国のセンシティブな分野であり,例外や原則の緩和は難航していた交渉をまとめ,高いレベルの自由化やルールを途上国など他の参加国が受け入れるための現実的な妥協が行われたためである(注5)。

 中国が加入の条件と考えられる全ての規定を直ちに満たすことは難しく,とくに国有企業についての障壁をクリアするのは不可能である。そのため,中国が要求すると考えられる例外への対応が交渉の焦点になるであろう。国有企業についてのルールは,「中国にルールを書かせない(中国の国家資本主義を認めない)」TPPの最も根幹のルールであり,安易な妥協はすべきでないことは言うまでもない。

[注]
  • (1)中国は第一段階の米中経済貿易合意で技術移転要求の禁止を認めていたが,FTAでは中韓FTAで差別的・不合理な措置のみを禁止した以外認めていなかった。ロイヤリティ規制の禁止も初めて認められた。設立前の内国民待遇と強制的な技術移転の禁止は,2020年1月1日から施行された外商投資法で規定されていたが,RCEPによりFTAで初めて認められたことになる。
  • (2)European Commission, EU-China Comprehensive Agreement on Investment,The Agreement in Principle 30 December 2020. なお,欧州議会は中国の人権問題に絡んだEUの対中制裁に中国が報復措置をとったため,2021年5月にCAIの批准手続きを凍結している。
  • (3)Annex Ⅳ-State-Owned Enterprises and Designated Monopolies. Text of Trans-Pacific Partnership Agreement.
  • (4)石川幸一(2016)「TPPの概要と評価」,石川幸一・馬田啓一・渡邊頼純編『メガFTAと世界経済秩序』勁草書房,24-26頁。
  • (5)菅原淳一(2016)「メガFTAの潮流とTPP」,馬田啓一・浦田秀次郎・木村福成編『TPPの期待と課題』文眞堂,所収。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2370.html)

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