世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
途上国化する日本経済について考える
(静岡県立大学国際関係学部 講師)
2021.11.29
「失われた10年」,「失われた20年」そして今では「失われた30年」と言われるように,日本経済の停滞が指摘されてから久しい。経済統計からもこの停滞は明らかである。例えば,IMFのWorld Economic Outlookによると,1人当りGDPは1980年に9,659ドルだったものが,1995年には44,210ドルまで増加したが,その後はおおよそ30,000ドル~40,000ドル台で低迷している。近年でも,2013年に40,934ドル,2014年に38,522ドル,2015年に35,005ドル,2016年に39,411ドル,2017年に38,903ドル,2018年に39,818ドル,2019年に40,689ドル,2020年に40,088ドルと増加傾向は見られず,40,000ドル前後で低迷している。
さらに,深刻なのは,潜在GDP成長率の長期低迷である。潜在GDP成長率とは,一国経済にあるすべての生産要素を投入して得られる経済成長率のことである。内閣府の推計によると,1981年に3.7%であり,1987年と88年に4.7%まで増加した後,低下傾向となる。そして,近年では0%台で低迷している。2013年は0.8%,2014年は0.9%,2015年は0.9%,2016年は0.9%,2017年は0.8%,2018年は0.7%,2019年は0.7%,2020年は0.6%である。
このような数字から明らかなように,経済停滞は豊かさを実感できない人が多数いるという現状を生み出している。この状況を指して,日本は先進国ではなく,途上国になったという論調も見かける。開発経済の観点からみると,経済的に豊かでない低迷している新興・途上国経済を成長・発展させるというのは,一つの大きなテーマであるので,その点では途上国化している。
このような状況になった要因はさまざま考えられるが,その一つは,日本経済が直面する課題に政府が正面から向き合おうとせずに,小手先の対応に終始しているということである。日本経済の現状は,高度成長期に代表される人口も経済も増加するときに構築された経済システムや社会保障制度のまま,経済が停滞する現状を迎えてしまったということである。この現状認識を踏まえると,日本が直面する課題は,停滞する現状に合わせるように経済システムや社会保障制度を改革するか,経済停滞を打破して持続的な経済成長につながるような構造改革を実施するしかない。これらの改革の重要性は政府も認識していて,全世代型保障構築会議や規制改革推進会議等,これまでもさまざまな会議を作ってきたが,どれも看板のみ掲げていて,実際の取り組みは小粒で中途半端である。これらの改革はどちらも非常に困難の伴う改革で,時間もコストもかかりすぐには成果が出ない。しかし,長期的な視野をもって腰を据えて本格的に取り組まない限りは,日本経済はこのままさらに途上国化していくであろう。
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