世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2221
世界経済評論IMPACT No.2221

米国7月議会の焦点:インフラ投資法案の成否

滝井光夫

(桜美林大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2021.07.12

超党派合意とバイデン大統領の発言修正

 上院の独立記念日休会が始まる直前の6月24日,バイデン大統領はインフラ投資法案(正式には雇用計画法案)について,10名の中道派上院議員(注1)との間で超党派合意に達した。8年間の投資総額は1.2兆ドル(5年間では9730億ドル)で,バイデン大統領の当初案2.3兆ドルの半分に縮小され,財源となる増税はすべて排除された(本コラムNo.2176参照)。

 日本の主要4紙は26日付朝刊で一斉に合意の概要を報じたが,現地26日に発表されたバイデン大統領の声明(注2)が反映されていないため,正確さに欠ける面がある。まず,発言を修正したバイデン大統領の声明からみてみよう。

 超党派合意後の記者会見(24日)でバイデン大統領は,インフラ投資法案と家族支援計画法案(注3)は「2頭立ての馬車」のようにセットになっているから,議会がインフラ投資法案だけを可決しても,署名しない,拒否権を発動すると述べ,共和党議員を驚かせた。

 しかし,6月26日の声明はこの発言を次のように修正している。「2法案の成立を公約にしてきた以上,これら2法案の成立に全力を尽くすのが私の使命だ。可決された法案に署名拒否とか拒否権発動を行うはずはない」。

 また,24日の会見では,予算調整措置を適用しなくとも法案成立は可能と述べていたが,26日の声明では,①インフラ投資法案の審議には,上院のフィリバスターを回避し,過半数の賛成で法案を可決できる予算調整措置を適用する,②ペロシ下院議長の要請に応じ,予算調整法案とインフラ投資法案の両方を,まず上院で可決し,下院に回すよう,シューマー上院院内総務に指示したことが明言されている。

法案審議で懸念される3つの問題

 上院は2週間,下院は1週間の独立記念日休会が明け,議会は7月12日(月)から審議を再開する。夏季休会が始まるまでの1ヵ月が,インフラ投資法案審議の山場となる。ポートマン上院議員によると,超党派法案は休会明けには出来上がると述べている。バイデン大統領が希望したとおりの超党派法案となったため,成立は間違いないと思われるが,民主党内からの批判票が予想されるため,予断は許されない。

 問題の第1は,大統領は譲歩しすぎたとの民主党左派の批判。超党派合意の投資総額はバイデン大統領の当初案の約半分だが,新規歳出額は5790億ドルでバイデン当初案の26%でしかない。差額はすでに他のプロジェクトに配分された予算を積み上げたものだ。また,新規予算の縮小で環境改善予算は210億ドルに圧縮されるなど左派,リベラル派の要求が減らされている。オカシオ・コルテス民主党下院議員(ニューヨーク)は,10人の超党派議員はみな白人で米国の地域分布を反映していないと批判する。

 第2は,財源問題。バイデン大統領は庶民の負担を増やすとして共和党が提案したガソリン増税,電気自動車課税などを拒否したが,富裕者や法人に対する増税による資金調達が不可能となったため,財源は未使用の失業給付予算,コロナ救済予算,公共サービス利用税などとなるが,これで必要な財源が確保できるのか,不透明さが残る。

 第3は,共和党強硬派の動き。上院共和党トップのマコネルは,超党派合意に明言を避けているが,批判的である。2022年11月の中間選挙を前に民主党に塩を送ることはないという意見も共和党内には根強い。

 バイデン大統領は合意成立後,ウイスコンシン州で遊説している。ラクロス市で演説した6月29日は,65年前,アイゼンハワー大統領が州間高速道路網建設法案に署名した日に当たったことから,今回の超党派合意はそれ以来の大規模なインフラ投資になると訴えた。演説では,党派を超えて共に協力すればできないことはないという自説を再び強調し,この合意が米国の民主主義が健全に機能していること,しかし,中国の研究開発投資が以前は世界第9位だったが,今や世界第2位になり,米国は第8位に後退していること,中国は全力で米国を追いかけていることを強調している。

 またこの演説でバイデン大統領は,10年間に1.8兆ドルの家族支援計画法案の制定,および富裕者・法人増税法案の成立に依然として強い意欲を持っていることを訴えている。

[注]
  • (1)10人の上院議員は民主党5人〔マンチン(ウエストバージニア),シャヒーン(ニューメキシコ),シネマ(アリゾナ),テスター(モンタナ),ワーナー(バージニア)〕,共和党5人〔キャシディ(ルイジアナ),コリンズ(メイン),マコウスキー(アラスカ),ポートマン(オハイオ),ロムニー(ユタ)〕。なお,インフラ投資法案の交渉は,5月から始まったカピト共和党上院議員(ウエストバージニア)との交渉が不調に終わった後,6月初旬,民主党10人,共和党11人との超党派協議に引き継がれ,今回の10人の超党派議員との交渉となった。議会との事前交渉はディーズ国家経済会議議長などが担当した。
  • (2)Statement by President Joe Biden on the Bipartisan Infrastructure Framework, June 26, 2021.
  • (3)日本の新聞は原文通りに「家族計画法」と訳しているが,誤解を防ぐため筆者は「家族支援計画法」と表記している。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2221.html)

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