世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2184
世界経済評論IMPACT No.2184

“海外に出る”戦略を可能にした中国の国際収支

童 適平

(独協大学経済学部 教授)

2021.06.07

 去年,新型コロナ感染症が世界中に広がったにもかかわらず,中国の海外直接投資は1099億米ドルに達した(しかし,これは中国政府国家外国為替管理局が発表した国際収支バランスシートによるもので,中国政府商務省HPでは1329.4億米ドルとなっている)。1978年から始まった改革開放政策のポイントは外国資本の導入にあることはよく知られているが,今は,外国資本の導入と並行して,中国資本の海外進出は脚光を浴び始めている。

 もちろん,中国資本の海外進出は最近から始まったわけでない。改革開放政策の一環として中国資本を含めて中国企業の“海外に出る”戦略は1990年代に,既に始まっていた。しかし,“海外に出る”条件が備わらなかったか,それほど開花されなかった。国際収支バランスシートによれば,2004年まで,対外直接投資は数億米ドルから数十億米ドルの間に推移していたが,変化は2005年から起きた。2005年に中国の海外直接投資は百億米ドル台にジャンプし,137億米ドルに達した。その後,小さいうねりがあっても,ほぼ順調に増加し続けた。2014年に更に千億米ドル台に乗った。2016年に2164億米ドルを記録した。翌年,1383億米ドルに大きく減少した。2018年と2019年もそれぞれ,1430億米ドルと1369億米ドルで低位推移が続いた。

 海外直接投資の拡大を支えた要因は何であろうかと検証してみたい。

 まずは貿易黒字の持続拡大である。2005年,貿易(財貨の輸出入)黒字は前年の514億米ドルから倍増以上の1243億米ドルに急増した。2006年には2068億米ドル,2015年には,5762億米ドルを記録した。その後,小幅減少したが,2020年は,再び5千億米ドル台を回復し,5150億米ドルに達した。

 潤沢な貿易黒字は中国経済の繁栄をもたらしたと同時に,外国との貿易摩擦をも生み出した。この貿易摩擦を交わすために海外への直接投資が必要であった。

 今一つは,海外からの直接投資である。海外への直接投資は海外からの直接投資とともに拡大してきた。時間的にも一致したように見える。2005年に,海外からの直接投資は前年の621億米ドルから1041億米ドルに急増した。その後,千億米ドル台を張り付け,順調に拡大し続け,2013年に2909億米ドルを記録した。2014年と2015年は2500億米ドル前後を保ったが,2016年と2017年は千億米ドル台に下落した。2018年に2千億米ドル台を回復した。新型コロナ感染症に見舞われた2020年も,対中投資は衰えを見せずに,2125億米ドルを実現した。

 このように,改革開放政策は貿易黒字を中心とする経常収支の黒字化だけでなく,海外からの直接投資を含んだ資本収支の黒字化も醸成した。この潤沢な国際収支の黒字は海外への直接投資を可能にした。日本のように,経常収支の黒字を資本収支の赤字でバランスさせることができなくても,“海外に出る”戦略を躍進させた。

 ところが,米中貿易戦争が更に進めば,中国の国際収支は大幅な出超から逆転することがあろうか。中国の“海外に出る”戦略は変わるのであろうか。

 中国税関のデータによれば,米中貿易戦争が取り沙汰された2017年から2020年までの間,中国の対米貿易黒字は,2019年の小幅な減少を除いて,増加の一途を辿り,米中貿易戦争からほとんど影響を受けなかった。そして,この間,中国は輸出先を変えたりして,対世界輸出入拡大のテンポを緩めることなく進み,世界最大の貿易額を持つ,揺るぎない地位を築いた。

 貿易と表裏に,WTO加盟後20年間経った今,中国経済はもう世界経済にビルトインされ,世界分業構造においても,すでに欠かせない存在となった。世界工場である中国から支払われた第一次所得収支は年々増加している。2020年,新型コロナ感染症に見舞われたにもかかわらず,その金額は3469億米ドルに上る。今後も更に増加していくであろう。

 また,中国の貿易・サービス収支の貿易は大幅の黒字を計上したが,サービス収支は一貫して赤字である。この中,最大の項目は観光の支出入である。その支出はほぼサービス収支赤字と同規模である。2020年は新型コロナ感染症のため,大幅減少し,1305億米ドルとなったが,2019年は2546億米ドル,2018年は2773億米ドルである。

 このように,アメリカは同盟国及びEUと連携して,ドラスティックな手段を使用しない限り,中国経済とデカップリングすることは夢で始まり,夢で終わるであろう。中国経済が国際分業に加われば,国際資本が中国に進出する機会が与えられることになる。これによって,安価の商品が提供され,第一次所得収支による収入が増加する。中国人が豊かになれば,海外に行き,お金を使い,世界経済を潤してくれるであろう。これはまさに資本主義の本性である。ドラスティックな手段は果たしあるのであろうか。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2184.html)

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