世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2087
世界経済評論IMPACT No.2087

産業政策不要論が日本のものづくり力を破壊した

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2021.03.22

 1990年くらいから多くの評論家,学者から,資本主義経済社会では,政府が手を出す「計画経済的な産業政策」は何の効果もなく,かえって弊害があるという意見がでてきた。「成長戦略は必要ない」,「成長戦略が経済成長をもたらすというのは幻想だ」という声があちこちで上がった。そして大学でも「経済政策論」の講座が消えていった。

 「不要論」がでたのは,1990年以降日本の産業政策,日本政府の成長戦略,構造改革,行政改革がことごとく失敗してきたからである。これは1990年からの日本経済の実績から見てもそう言わざるを得ない。GDPの伸びでは,先進国の中で日本が一人負けである。国民の生活は苦しくなって,国内での産業の活動は衰退し,日本的経営と日本的な強い商品が無くなってきている。

こうした「不要論」ができたとこにはいくつかの理由がある。

 池田内閣から田中内閣の1960年から1980年の間の日本経済の高度成長を見てアメリカは大きな恐怖を受け,日本叩きを始めた。まずエズラ・ボーゲルが「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を書き,日本を褒め殺しにした。「日米自動車貿易交渉」,「日米半導体貿易交渉」,「日米構造協議」,「年次改革要望書」などで,アメリカは日本産業と日本の「官民一体構造」を壊して,日本産業を弱体化させ,そして日本の半導体産業,家電産業を消してしまった。自動車産業では,トヨタがアメリカに急遽11の工場を造り,アメリカで雇用をつくり,何とかアメリカの矛先をかわした。

 そしてアメリカに強要されたグローバル化の行き過ぎで,日本は自らの手で日本の経済産業構造を破壊して,弱体化してしまった。工場を海外に移動し,国内はリストラが起こり,その上に非正規社員制度を製造業にまで拡大し,2000万人以上の非正規社員は安い賃金で働かされ,結婚もできない状態になっている。これでデフレが25年以上も続いている。これではどんな成長戦略計画,構造改革も失敗であったと言われることになる。

 小泉政権以降の日本の政権は次々と数年で交代したので,成長戦略計画が策定されたとたんにすぐ中止になった。これが20年ぐらい続いた。そのために政府の成長計画は単なるアドバルーンに終わり,「政策不要論」が出てきた。だが悪いことに,この「アドバルーン」に利得権者,レントシーカー(利権屋)が集まり,国の金を蝕んでしまうことになった。安倍首相は「いかなる既得権益も私のドリルから逃れられない」と豪語したが,実際には「森本学園」,「加計学園」のようなプロジェクトを取り上げ,真逆のことをして,レントシーカーを呼び寄せた。

日本のモノづくり力の劣化

 こうした小泉政権からのグローバル化により日本産業の「モノづくり力」が劣化し,これまでの日本的な強みを持った商品が消えていった。そしてコロナ・パンデミックで分かったことは,日本は多くの商品,部品を中国に握られていたことである。国内市場において日本自身でものを作る能力が無くなってきていることが明白になった。世界のサプライチェーンのなかでの日本のモノづくり力の地位は劣化した。トランプの中国叩きでハイテク技術のデカップリングが起こり始め,中国は自分の手で更に先端ハイテク技術を開発し,製造業を強化しようとしているので,日本はますますモノづくりの後進国になる。小泉政権以降,「構造改革」,「行政改革」,「緊縮財政」の名のもとに,インフラの投資は削減され,医療組織,保健所が大幅に削減されたので,コロナ禍でパニックになり,医療関係者は死ぬ思いでコロナと闘っている。社会経済構造のバランスをまず考え,公でやる仕事と民でやる仕事を峻別しなければならない。

 エネルギー,食糧はますます外国から輸入し,日本製品の独壇場と思われていた自動車部品,電気製品の基幹部品も中国,韓国,台湾に握られている。日本の航空機産業で頑張っていた三菱重工業もついに「スペースジェット」の開発を諦めてしまった。「モノづくり国日本」は瀕死の状態にある。IT,ソフトの世界にも日本は充分に踏み込めていない。このために,日本経済の「潜在成長率」も1965年の5%から下落し,今は1%を切っている。労働者の投入率,賃金水準,機械設備投入,技術開発すべてが降下している。

 モノだけではなく,日本国民の日本精神も破壊し,日本家族も解体してしまった。デフレと貧困化で国民は希望を失い,若者は諦めの境地になっている。

 このように日本経済は地に落ちてしまったので,これからは「復活の時代」に入る。それには,国民が政府を信頼し,国民に明日への希望を持たせることが重要である。日本の首相として菅氏のやる仕事の最も重要なものはこれである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2087.html)

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