世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2064
世界経済評論IMPACT No.2064

輸出は中国経済復興を牽引した

童 適平

(獨協大学経済学部 教授)

2021.03.01

 新型コロナ感染症による武漢ロックダウンから1年間経つ1月18日に,中国国家統計局が2020年中国GDP速報値を発表した。GDP総額は初めて100兆元の大台を突破,101兆5986億元に達した。前年比では2.3%の成長となる。新型コロナ感染症拡大を抑え込み,“復工・復産”(生産再開)が進み,経済が立ち直りつつあることは分かったが,早くプラス成長に転じたことは意外であった。このプラスの経済成長は何によるものであろうか。

 需要から見てみよう。支出法GDPの発表はまだだが,計算方法が違う投資(全国固定資産投資,農業を含まない),消費(社会消費財小売総額)と純輸出(輸出-輸入)のデータは公表された。それぞれ518,907億元,391,981億元と37,096億元(179,326億元-142,230億元)であり,前年比では,2.9%増,3.9%減と1.9%増であった。プラス成長を牽引したのは投資と輸出であることが分かった。

 投資のけん引役はよく理解できる。世界金融危機以降,投資は常に経済成長率調整の慣用手法だからである。しかし,米中貿易戦争,特に世界各国は新型コロナ感染症に見舞われた最中に,輸出は成長を牽引したと,思わず疑問を持つ,頭をひねるところであった。輸出先と輸出製品の内容を見てみよう。

 まずは輸出先である。2020年,最大の貿易相手国(地域)は,アメリカ,EU,アセアンであり,その金額はそれぞれ4518億米ドル,3910億米ドルと3837億米ドルである。前年比では軒並み上昇し,その上昇率はそれぞれ7.9%,6.7%と6.7%であった。米中貿易戦争と新型コロナ感染症拡大の影響を受けずに,主要輸出先への輸出は拡大した。対米輸出も減少どころか,増加した。しかも全体の輸出増加よりも,主要貿易相手のEUとアセアンよりも増加幅が大きかった。

 次は輸出品目の内容である。輸出品目の増減はまちまちである。農産品と原材料及び服装・履物などは大きく落ち込んだ中,マスクを含めた紡績製品の輸出は前年より104.8%増加して,944億米ドルに達した。伝統的な輸出製品の落ち込みに対して,電気機器及びその製品の輸出は大きく伸び,全部輸出額の6割を占めるようになった。特に,目立ったのはノートパソコン,家庭用電気製品と医療用機器であった。それぞれの伸びは19.9%,23.5%と40.5%に達した。

 このように,新型コロナウイルスのパンデミックによる“巣ごもり需要”などの一次的な要因があるにしても,2001年に,中国がWTO加盟して,20年間経った今,中国経済はもうグローバル経済の一部になった。“マスク外交”や“ワクチン外交”と批判されるが,有事の時こそ,中国のプレゼンスが高まる。中国語で言えば,“危機を機会に”である。中国経済とデカップリングすると言っても,米中貿易戦争のように,アメリカだけでなく,世界の中国製品への依存度はかえって高まる。国連UNCTADが今年1月24日に発表したFDI報告によれば,2020年,EUやアメリカの低迷と対照的に,中国が受け入れたFDIは引き続き増加し,1630億米ドルに達し,世界最大のFDI受け入れ国となった(Global foreign direct investment fell by 42% in 2020, outlook remains weak | UNCTAD)。14億人の大市場はまだまだ魅力的である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2064.html)

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