世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2047
世界経済評論IMPACT No.2047

「トランプ新党」は成功するか?

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2021.02.15

 トランプ氏はホワイトハウスを去った後も継続的な影響力を行使するため新しい政党の結成について仲間と話し合った。大統領は新党を「愛国者党」と呼びたいと述べた。

 2月の弾劾裁判で共和党が彼の弾劾に賛成しないようにするための作戦として「新党結成」を言っているのではないか?―という声もある。しかし退任後の彼に対する弾劾騒動は,ますます彼に注目を集め,どのような結果になっても「悲劇の英雄」にするだろう。

 モーニングコンサルトの調査でも,共和党有権者の81%がトランプを承認。党最高幹部マコーネルについては32%。キャピトルヒルの暴動後の調査でも2024年共和党予備選挙でトランプは大規模なリード。

 トランプ弾劾に賛成した共和党の有力下院議員リズ・チェイニー氏は支持率が13%まで低下。2022年の再選で手強い党内予備選対抗馬を建てられそうだ。

 資金的にも選挙後の裁判闘争等に関して集まった献金は4億ドル以上。若手スタッフがフロリダまでトランプ氏を追って彼の個人事務所を設立し,1月25日,正式な事務所設立の宣言を出している。

 その声明に前後して早速アリゾナ共和党ワード議長は,彼の最初の任期の終了後にトランプ氏によって録音された音声を投稿。彼女の再選を彼が支持していることを明らかにし結果として彼女は再選された。またトランプ氏の元広報官サラ・サンダース氏も,アーカンサス州知事選挙に立候補を表明。彼女もトランプ氏の応援で勝利する可能性が高い。

 トランプ新党は,始動し始めているのである。

 より深い問題がある。

 2020年の国勢調査で米国の人口は2019年7月から2020年7月の間にわずか0.35%増加。国勢調査局が1900年に開始してから最も低い。55歳以上の人口は過去10年間で27%増加したが,他のすべての人はわずか1.3%増加。

 2019年の非ヒスパニック系白人の数が2010年よりも約16,000人少ない。米国史上初めて白人の人口が減少した。

 だが過去10年間で米国は約1,950万人を追加した。白人の人口が減少したため,全体的な増加はすべてマイノリティ。

 その約半分である1,000万人は,ヒスパニック。ほぼ4分の1の430万人がアジア系。今日,2010年よりも320万人の黒人が増加。

 いま15歳未満の人は明らかに白人が50%以下である。70歳以上の団塊世代では70%以上が白人。

 18歳から29歳の人々が2016年から2020年の間に19%から27%の民主党支持の増加を記録していて,これは2020年の選挙でトランプ氏にマイナスだった可能性は高い。しかし前述のように20代の若者より70代の高齢者の方が人口は多いのである。

 そしてバイデン政権は就任早々,トランプ氏が撤退したシリアに派兵したりしている。またパリ協定に再加入すると「15年間で,4人家族あたり合計2万ドルの損失になる」という計算もある。バイデンはシリコン・バレーやウオール街から数億ドルの献金を受けて大統領になった。これから金持ち向けの政策に走る可能性は低くない。

 その他に今後,2020年にバイデン民主党に投票した若者が「こんな筈ではなかった」と後悔し,もう選挙に来なくなる可能性は低くないと思う。

 世代や人種だけではなく,地域差も重要だ。

 前述の人口流出地域は共和党州,人口流入州は民主党州であることは否めない。だが後者は極端な格差社会になっている。前者は古き良き秩序が守られている。

 ニューヨークとテキサスが良い例だろう。ニューヨークの地方検事局が会計上の問題で全米ライフル協会を解散させようとし,それをテキサスが引き取ろうとしている。テキサスはバイデン政権になって,さっそく「不法移民の国外追放の凍結」を発表。それを巡ってテキサス州はバイデン政権を訴える。

 これは丁度,人口流出地区と人口流入地区の争いのように見える。

 だが移民でも二世,三世になれば,米国の建国精神―ピューリタンの精神を,むしろ白人以上に強く意識し,保守的になる人は少なくない。

 また最も都市化していない郡(全体の20%)でトランプ支持率は四年前の3%上昇。最も都市化された郡(上位20%)でバイデンは4%上昇。

 今の段階で人口流出地区が基盤では不利だとは言えないのである。

 そのような世代,宗教,地域等を狙えば,やはり「トランプ新党」に勝機はある。

 例えば貧しい移民系や高齢の白人なので福祉の充実を支持したいが,宗教熱心で同性愛結婚や妊娠中絶に反対なため支持できないーというような人向けの政策を打ち出せば良いのではないか?

 このような新政策を打ち出せば,トランプ氏は第3政党を立ち上げて,米国政治を変えられるだろう。

 そこまで言わなくとも建国初期以外には有力な第3党の候補者が大統領選に出馬した時には,必ず二大政党の候補者の内,勝てる筈だった方が負けた。それを考えると再び共和党がトランプ氏を大統領候補に迎え入れることは十分以上に有り得る。

 何れにしても何らかの意味での「トランプ新党」政権奪取のためには2022年の中間選挙が重大な資金石になる。その前哨戦が既にリズ・チェイニー氏やアリゾナ共和党ワード議長を巡る問題等として,起こっていると理解することも出来るだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2047.html)

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