世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2027
世界経済評論IMPACT No.2027

新「5カ年計画」で制裁との総力戦に挑む北朝鮮:朝鮮労働党第8回大会の注目点

上澤宏之

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2021.01.25

 北朝鮮は,今年1月5日から8日間にわたって金正恩朝鮮労働党委員長出席の下,第8回党大会を開催した。2016年5月の第7回党大会以来,約4年8か月ぶりに開催した今次大会では,北朝鮮の現在の内外認識と今後の内外政策を読み解く上で鍵となる党の活動報告を金委員長が行った(『労働新聞』1月9日付け)。

 国連制裁や昨夏の大規模水害,コロナ禍の「三重苦」に見舞われた上,バイデン新政権の発足で対米関係の見通しも立たない中,北朝鮮は今後どのように体制の安定化を図っていくのだろうか。本稿では今次党大会で行われた金委員長による活動報告のうち,経済政策に着目してその注目点を整理してみたい。

 第一の注目点は,1980年代以来となる長期経済計画を樹立したことが挙げられる。冷戦末期の1987年から最後の計画となる「第三次第7カ年計画」(~1993年)を実施して以来,約半世紀ぶりとなる経済計画である。金委員長は,今次報告で「新『5カ年計画』(2021~2025年)の中心課業は,金属工業と化学工業を鍵となる部門として捉え,投資を集中し,人民経済すべての部分で生産を正常化し,農業部門の物質技術的土台を強化し,軽工業部門で原料,資材を円満に保障し,人民消費品の生産を増やす」と強調した。数値目標など計画の具体的内容については殆ど言及しなかったが,「わが国家経済は自立経済であると同時に計画経済」と主張するなど,今後,「計画経済」を中心に国家が主導的に経済事業を推進していく方針を明らかにした。

 こうした経済計画樹立の背景には,制裁下で限られた資源を国家経済に最大限動員するため,近年北朝鮮国内で拡大していた「市場経済」を制限し,経済に対する国家の統制を強めたいとする思わくが働いたものとみられる。このことは金委員長が「経済事業に対する国家の統一的指導を実現するため規律を正しく打ち立て,国家的な一元化統計体系を強化し,国家経済の命脈を繋ぐための事業を正しく展開する」と述べたことからも推察できる。他方,前回党大会で強調した「工場,企業所,協同団体が社会主義企業責任管理制の要求に合うよう経営戦略をしっかり立て,企業活動を主導的に,創発的に行い,生産を正常化し,拡大発展しなければならない」といった企業の自由な経営活動を認めるとした文言には,今次大会で一切言及しなかった。この点から今後,「計画経済」と「市場経済」がどのような相互関係を形成していくのか注目されよう。

 第二の注目点は,「自力更生」路線を拡大・強化する方針を示したことが指摘できる。金委員長は「『5カ年計画』の基本種子,主題は変わることなく自力更生,自給自足である。(中略)国家的な自力更生,計画的な自力更生,科学的な自力更生へと発展しなければならない」と強調した。その上で「わが経済をいかなる外部的影響にも揺らぎなく円滑に運営される正常軌道に打ち立てる」とも指摘した。北朝鮮は前述の「第三次第7カ年計画」を総括した際,「1990年代に入って相次いで起こった重大な国際的な出来事と複雑な事態は,わが国の社会主義経済の建設に大きな障害と難関をもたらした」(1993年12月9日付け「朝鮮労働党中央委員会総会の報道」)と指摘するなど,ソ連崩壊という「外部的影響」で経済が低迷したとの認識を示した過去もあり,現下の経済制裁という「外部的影響」への対応を強く意識したものと思われる。

 北朝鮮が目指す「自力更生」路線は,「敵の卑劣な制裁策動を自強力増大,内的動力強化の絶好の機会に反転させる攻撃的な戦略」と主張するなど,制裁下でも経済成長を追求することが特徴して挙げられ,その具体策として「科学技術の力で生産正常化と改建現代化,原料,資材の国産化を積極的に推進する」ことなどを指摘している。これは一国ですべてのサプライチェーンを網羅する「一国社会主義論」を彷彿させる経済戦略であるが,視点を変えれば,制裁との長期持久戦に向けて「すべての国民と物的資源を有機的かつ有効に組織,統制,動員する」(『世界大百科事典』)総力戦を強く意図した態勢を目指していることもうかがわれる。

 第三の注目点は,経済低迷の原因を前述した「外部的影響」のみならず,自らの経済体制内にも見出していることである。金委員長は今次報告の中で,前回党大会で打ち出した「国家経済発展5カ年戦略」(2016~2020年)について「成長目標が甚だしく未達成に終わった」と経済失政を率直に吐露した上で,その原因として「最悪の野蛮的な制裁封鎖策動」や「厳しい自然災害(昨夏の水害)と昨年発生した世界的な保健危機(コロナ禍)の長期化」などの「客観的要因」を挙げたほか,「古い事業体系や不合理かつ非効率的な事業方式,無責任な事業態度,無能力」などの「主観的要因」にも触れた。ここで興味深いのは,金委員長が新設した検閲チームを今次大会の4か月前から各地域に派遣し,「労働者,農民,知識人党員」から経済の問題点についてヒアリングするとともに,それらをもとに各省・中央機関で徹底的な分析を行ったことを明らかにしたことである(1月5日の開会辞,『労働新聞』1月6日付け)。その上で「新『5カ年計画』は現実的(実現)可能性を考慮した」と補足して説明しており,こうした取組が今後,経済管理や生産性にどのような影響を与えるのか関心が持たれる。

 そして最後の注目点として中国との関係強化を強調したことに言及したい。金委員長が今次報告で「社会主義を核とする朝中親善関係の新たな章を開いた」と述べるなど,前回党大会以降,中朝関係が更に前進した旨評価した。前回大会で「中国」には全く触れなかったのとは対照的である。その上で「対外事業部門で社会主義諸国との関係を一層拡大発展させる」ことを呼び掛けた一方,前回大会で言及した「資本主義諸国との交流と協力を発展させる」との文言には今次大会で触れなかった。

 これらの情勢認識からは,継続する経済制裁や先鋭化する米中貿易紛争などで悪化した対外経済環境を踏まえ,今後,中国などの「社会主義市場」を中心に経済活動を展開していく思わくが読み取れる。2019年の北朝鮮の貿易額(32.4億ドル)に占める対中比率は95.3%(30.9億ドル)にも上るなど(KOTRA),国連制裁下での中国との経済関係は,北朝鮮の「命綱」ともいえる存在となっており,この傾向は今後一層強まることが見込まれる。

 以上のとおり今次活動報告を通じて「自力更生」を中心とした経済政策の注目点を見てきた。しかし,北朝鮮が主張する「自力更生」は,科学技術の振興や投資効率・労働生産性の向上を中心とした内包的経済発展と国産化を軸とした輸入代替工業化などの「閉鎖経済」を前提としているものの,制裁により外部経済と断絶された環境下ではそうした経済発展の実現においても相当な困難が伴うことは改めて論じるまでもない。

 それゆえ北朝鮮にとっては,制裁下での経済発展に向けて対中傾斜を今後更に強める選択肢しか残されておらず,北朝鮮の「自力更生」は「主体経済」とは裏腹に,中国への経済的依存を深化させる「他力更生」と必然的に表裏一体の関係を成さざるを得なくなろう。折しも中国は「双循環」構想と称して独自のサプライチェーンを構築する方針を打ち出し,内需を軸に米国に依存しない自立した経済圏の形成を目指している。北朝鮮が体制の安定化に向けてどのように経済再建を進めていくのか,周辺国との関係を含めて今後の動向を注意深く見極めていく必要があろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2027.html)

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