世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本学術会議をめぐる問題について考える
(静岡県立大学国際関係学部 講師)
2020.10.26
菅義偉首相が誕生してから,2020年10月16日で1か月が経過した。菅政権発足直後は高支持率であったが,その中で起きたのが日本学術会議の会員任命を拒否した問題である。
この日本学術会議の会員任命問題については,すでに新聞,テレビ等のマスコミで盛んに報道されている。学問の自由の危機であるとか,首相や政権が説明責任を果たしていないとか,この任命拒否は日本学術会議法に違反するとか,様々なことが言われている。
しかし,ここでは,菅首相が「国の予算を投じる機関として国民に理解される存在であるべき」とか「政府の機関であり年間10億円の予算を使っている」という趣旨の発言をしていることを考える。つまり,日本学術会議には多額の税金を使用しているので,国民にとって良い組織でなければならない,ということについて考察する。
確かに年10億円という金額は巨額だが,巨額のお金が投入されているのは,何も学術会議だけではない。例えば,国会議員が所属する主要な政党にも税金が使用されている。それは政党助成制度と言われるもので,総務省HPによると,「国が政党に対し政党交付金による助成を行うことにより,政党の政治活動の健全な発達の促進及びその公明と公正の確保を図り,もって民主政治の健全な発展に寄与することを目的とした制度です」とある。
この制度に基づく政党交付金について,同HPでは「政党交付金の総額は,最近の国勢調査の人口に250円を乗じて得た額を基準として,国の予算で決まります」とある。政党交付金についても国の予算つまり,税金が使用されている。主要な政党の最新の2020年分の交付状況は同HPによると,以下の通りである。自由民主党には17,261,364,000円(172億6136万4000円),立憲民主党には4,290,207,000円(42億9020万7000円),国民民主党には4,648,376,000円(46億4837万6000円),公明党には3,029,325,000円(30億2932万5000円)が交付される。なお,HPの資料は17,261,364,000という表記で分かりにくいので,( )内に通常表記される億,万,という形に直した。
自民党には日本学術会議の約10倍の約172億円もの国の予算が投じられているが,国民に理解されている存在なのか,また政党交付金制度についても様々な問題点が従来から指摘されているが,それらを改革する意図があるのか,学術会議の場合と異なり,現時点では我々には見えてこない。
また,「国民」といった場合,与党支持者を指すだけなく,野党支持者など与党を支持しない人も指すと考えられるが,現在の政治は,このような人のことも考慮した政治が行われているのだろうか? 総務省HPの「民主政治の健全な発展」に寄与する政治が行われているのだろうか。
ここ最近の政治をみていると,そのように思えない。与党が,数の力に任せて,一方的に決定しているように見えてしまう。さらになぜそのような決定をしたかについても説明も足りず,取り残されている感じになってしまう。つまり,支配者が権威を振るっていて,生身の権力を振りかざして自分のやりたいようにやっていて,批判されても正面から答えずに説明責任も果たそうとしないように見えてしまう。菅首相は「広い視野に立ってバランスの取れた活動」とこの任命問題について述べたが,同じことは政治の世界にも言えるのではないか。多数決の原理で与党が物事を決定していくのは当然であるが,もう少し少数者の意見を反映する形で柔軟に政治を行って欲しい。
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