世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米国大統領選挙:民主党が上下両院で多数派になる可能性
(桜美林大学 名誉教授)
2020.10.26
大統領選挙と同時に行われる連邦議会上院および下院議員選挙の結果は,来年1月20日に就任する大統領の政策運営に大きな影響を与える。下院は現在と同様に民主党が多数を占めるとみられるが,上院も民主党が多数を占めれば,バイデン新民主党政権が誕生した場合は,オバマ第1期政権の前半(2009~2010年)と同様に,大胆な新政策の実施が可能になる。逆に共和党が現在と同様に多数を占めれば,バイデン新政権は大きな困難に直面することになろう。
上院選挙結果の見通し
上院は州の人口に関係なく,各州2議員,総数100人で構成される。議員の任期は6年。2年毎に全体の3分の1が改選される。改選される議員は1州1人だが,今年はジョージア州で2つの選挙が行われるため(ひとつは通常の改選,もうひとつは特別選挙),34州で選挙が行われ,選出される議員は35人となった(注1)。35人の党派別内訳は共和党23人,民主党12人で共和党が民主党の2倍lも多いだけに,共和党が多数党から少数党に転落するリスクが高いことになる。
現時点の上院議員の党派別構成は共和党53人,民主党45人,無党派2人。無党派の2人は民主党と投票行動を一致させているため,共和党53人に対して民主党は実質的に47人となり,その差は6人である。このため,2021年1月3日に開会する上院議会で民主党が過半数を占めるためには,現議席を3ないし4,増やせばよいことになる。上院議長は副大統領が兼ね,採決が50対50の同数となった場合には副大統領が票決に加わるため,民主党が政権をとれば3議席増で民主党は過半数を占められる。しかし,共和党政権が続く場合は4議席増やす必要がある。各州の状況をみてみよう。
選挙が行われる34州について,各種の選挙予測機関の分析を比較してみると(注2),民主党上院議員が改選される12州,12人の現職議員のうち,厳しい状況にあるのは3州の3人だけである。これらはアラバマ州(現職Jones,共和党の対抗馬Tuberville),ミシガン州(同Peters,同James),ミネソタ州(同Smith,同Lewis)である。
これに対して,共和党議員が改選される22州,23人の現職議員のうち,厳しい状況にあるのは,アリゾナ州(現職はMcSally(女性初の空軍パイロット),対抗馬は民主党のKelly),コロラド州(同Gardner,同前州知事Hickenlooper),ジョージア州の改選(同Perdue,同33歳のOssoff)および特別選挙(同Loeffler,同アフリカ系牧師Warnock),アイオワ州(同Ernst,同Greenfield),メイン州(同Collins,同Gideon),モンタナ州(同Daines,同Bullock),ノースカロライナ州(同Tillis,同Cunningham),サウスカロライナ州(同司法委員長Graham,同Harrison)の8州,9人。これは民主党3人の3倍も多い。
接戦州も含めた全体の見通しを示した予測機関は少ないが,民主党対共和党の議席数は,FiveThirtyEightは 52対48,The Economistは 52.6対47.4,と民主党が多数党に返り咲くとしており(10月22日閲覧),上記の選挙戦の状況からも,民主党が多数党の地位を共和党から奪還する可能性が高いとみられる。
下院議員選挙の見通し
下院議員の総数は435人。人口に合わせて議員1人の州が7州(アラスカ,デラウエア,モンタナ,ノースダコタ,サウスダコタ,バーモント,ワイオミング),20人を超える州が4州ある(カリフォルニア53人,テキサス36人,フロリダ27人,ニューヨーク27人)。任期は2年で全員改選となる。
現在の党派別議席数は民主党232(欠員発生前は233),共和党197(同201),リバタリアン党1(同1),欠員5。今回の選挙では,共和党は超保守系議員,民主党は若手の左派がどの程度議席を増やすか注目されるが,2018年の中間選挙で多数党に返り咲いた民主党が,今回も引き続き多数党を維持するものとみられる。最新時点の予測は,FiveThirtyEightが民主党239人,共和党196人としている。
その他の選挙
正副大統領,上院議員および下院議員のほかに,今回の選挙では州の知事,副知事,司法長官,州務長官など州政府幹部,州議会議員などの多くの地方選挙が行われる。このうち州知事選挙は11州で行われ,改選される知事は民主党が4州(デラウエア,モンタナ,ノースカロライナ,ワシントン),共和党が7州(インディアナ,ミズーリ,ニューハンプシャー,ノースダコタ,ユタ,バーモント,ウエストバージニア)である。
州知事の任期は2年または4年など州によって異なり,任期の終了は1月が多いが,ニューヨークなど12月の州もある。現在の党派別分布は民主党知事が24人,共和党知事が26人。党派間の分裂が深まり,特にトランプ政権下では,パンデミックに対する政策が党派によって大きく異なるなど,州知事の党派は州の行政に大きな違いをもたらしている。
[注]
- (1)ジョージア州で選挙が行われる上院2議席のうち1議席(現職のPerdue)は通常の改選選挙だが,もう1議席は2019年12月に病気で辞任したイサクソン議員の残余期間(2021年1月まで)の上院議員としてケンプ知事が指名したラーフラー女史と民主党のワーノック候補との間で争われる特別選挙である。両者の得票率が50%に達しなかった場合は,2021年1月に決選投票が行われる。なお,特別選挙は選挙の洗礼を受けていない議員に対して行われるが,今年はもう1件,アリゾナ州のマクサリー上院議員に対しても特別選挙が行われる。なお,この議席は2018年8月に死亡したマケイン上院議員の後任を同州知事が指名したものである。
- (2)各州の選挙状況は Ballotpedia ,RealClear Politics,FiveThirtyEight,Ballotpedia所載の Cook Political Report,Inside ElectionおよびSabato’s Crystal Ballに拠った。閲覧時点はいずれも10月22日。
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