世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1896
世界経済評論IMPACT No.1896

米国大統領選挙:世論調査と当落分析

滝井光夫

(桜美林大学 名誉教授)

2020.09.28

郵便投票の締め切り日

 9月18日からバージニア,ミシガンなど4州で期日前投票が始まった。バージニア州の一部の投票所では50人余のトランプ支持派が大きな旗を何本も立て,投票を待つ人々に向かって「もう4年」と叫んでいた(電子版現地紙の動画)。一番遅く始まる期日前投票はオクラホマ州の10月29日だが,投票日前に受付を止める州もあるし,そのまま11月3日の投票日まで続ける州もある。また,期日前投票は投票所での投票に限定する州もあるが,不在者投票や郵便投票で受け付ける州もあり,全米で統一されてはいない。

 郵便投票は各州とも11月3日の投票日までの消印があれば受け付けられる。しかし,ニューヨーク・タイムズによると,州裁判所などによって締め切り日が延長され,ペンシルバニア州は11月6日午後5時,ノースカロライナ州は同12日,ミシガン州は同17日までとなった。これに反対する共和党は連邦最高裁に提訴しているが,最高裁の判決がなければ,11月3日に選挙結果を確定できない州も出てくる。また,刑期を終えて釈放された重罪犯に投票を認めるか否かなど,このところ選挙関係で連邦最高裁に持ち込まれるケースが増えている。

2016年世論調査の大誤算

 大統領候補者に対する支持率は,「今日が投票日だったとしたら,あなたは誰に投票しますか」という質問で行われる。支持率は一貫してバイデンがトランプを上回り,両者の差は最新のNBCニューズ/ウォールストリート・ジャーナル調査で8%ポイント,トランプ支持のフォックスニュース調査でも5%ポイントとなっている。

 支持率は正副大統領候補を決定する全国党大会後,次に大統領討論会後に変わることが多いが,今年の党大会後は支持率に大きな変化はなかった。パンデミックのなかで,民主党大会は聴衆なしのオンラインで行われ,共和党大会は聴衆を入れて華々しく,トランプ大統領は連日演説し,大会最終日は会場をホワイトハウスの南庭に移し,最後は花火まで打ち上げた。トランプ大統領も家族もマスクをつけず,マスクをした聴衆はほとんどいなかった。

 大統領討論会は,1回目が9月29日(投票日まであと35日),2回目が10月15日(同19日),3回目が22日(同12日,時間はいずれも東部標準時の夜9時~10時半)。副大統領討論会は10月7日,1回だけ同じ時間帯に行われる。また,投票日直前に重要な事件が起これば支持率も変わる。

 2016年大統領選挙では,投票日直前に発表された世論調査は1社(USC/Los Angeles Times)を除き,すべてヒラリー・クリントンの当選を予想した。しかし,これが見事に外れた。その要因を,統計学者で選挙分析に定評のあるネイト・シルバー(ウェブサイト「ファイブサーティーエイト」の創設者,42歳)は,その原因として次の4点を挙げている(注1)。①ある州の動向と他の州の動向との相関関係を過少評価した(ペンシルバニア州におけるクリントンの不調は人口構成の類似したウィスコンシン州,ミシガン州でも起こった),②投票日直前,コミーFBI長官が議会に送った書簡(注2)が有権者に与えた影響を軽視しすぎた,③態度未定者および第3党支持者の行動を読み切れなかった(例えばミシガン州),④一部の予測モデルが近年の選挙分析にとどまり,1980年まで遡って分析していなかった。この説明は,よく言われる「隠れトランプ」の存在には触れず,予測モデルと分析手法を重視しており,改善策がその後の予測に生かされているという。

バイデンの高い当選確率

 大統領討論会後もトランプの劣勢が続けば,敗北は決定的と報じられているが,当落を決定する重要なポイントは,接戦州(swing states)における得票数である。2016年選挙では,トランプは接戦州を制して勝利したが,ヒラリー・クリントンとの得票差・得票率差は次のとおり紙一重であった。ミシガン州(選挙人16人)1.1万人・0.22%,ペンシルバニア州(20人)4.4万人・0.72%,ウィスコンシン州(10人)2.3万人・0.76%,フロリダ州(29人)11.3万人・1.19%,アリゾナ州(11人)9.1万人・3.50%(注3)。

 今回はどうなるであろうか。9月24日の時点で数社が選挙人の獲得予想を発表しているが,いずれもバイデンの勝利を予測している。細かいデータを発表しているファイブサーティーエイトの9月24日時点の予測は,当選確率がバイデン77%,トランプ23%,獲得選挙人数はバイデン330人(全538人の61.3%),トランプ208人(同38.7%),得票率はバイデン52.7%,トランプ46.0%である。2016年の選挙でクリントンが敗れた上記接戦5州におけるバイデンの予想勝率は,ウィスコンシン州とミシガン州80%以上,ペンシルバニア州76%,アリゾナ州65%,フロリダ州57%と分析している(projects.fivethirtyeight.com/2020-election-forecast/,検索時点は日本時間25日午前10時)。

 これとは別に,ネイト・シルバー自身が9月2日のツイートで得票差(バイデン>トランプ)別にバイデンの当選確率を示している。これによると,700万票差で98%,450票差で74%,300万票差で46%,150万票で10%以下とし,バイデンのトランプに対する得票差が小さくなるほど確率は低下し,得票差300万票では勝敗は五分五分となる。今後,バイデンが討論会をどう戦うか,どのようなオクトーバー・サプライズが起こるか,接戦州の得票状況がどうなるか,民主党支持者が圧倒的に多い郵便投票が無事にカウントされるか,等々が勝敗に大きく影響する。なお,トランプ大統領は9月23日,選挙結果を連邦最高裁で争う意向を早々と明言した。

[注]
  • (1)Nate Silver, The Real Story of 2016, published on January 19, 2017.
  • (2)ヒラリー・クリントン国務長官が私用のメールを公務に使った問題は,コミーFBI長官が2016年7月に捜査終結を発表したが,投票日直前の同年10月28日,同長官はその再捜査開始を議会に通知した。クリントン陣営はFBIの異例の措置に抗議声明を出した。
  • (3)全米の選挙人は538人(上院議員100人,下院議員435人,首都ワシントンに配分された3人の合計)で,過半数の270人以上を獲得した候補者が大統領に当選する。538人の州別配分は,各州の上院議員数(定数2人)と下院議員数(人口で按分)の合計人数。48州と首都は得票数の多い勝者がすべての選挙人を獲得する(ウィナー・テイク・オール)。メイン州(選挙人4人)とネブラスカ州(5人)の2州は,州全体の得票数が最大の勝者が選挙人2人,次いで各下院選挙区の勝者が選挙人1人を獲得する方式を採用している。選挙人数が人口比となっていないため,選挙人制度は,不公正,不平等で代議制に反するとの批判がある。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1896.html)

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