世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米中戦争の中の日本
(エアノス・ジャパン 代表取締役)
2020.09.07
アメリカの中国への宣戦布告
2020年7月13日ポンペオ米国務長官は,「世界は中国が南シナ海を自らの海洋帝国として扱うことを認めない」,南シナ海での領有権を巡る中国の主張を否定した2016年7月のオランダ・ハーグの仲裁裁判の判決に「米国の立場を一致させる」と宣言した。21日にアメリカは,中国のスパイ活動の拠点となっているヒューストンの中国総領事館の閉鎖を要求し,3日後に中国はそれを閉鎖した。その報復として,27日中国は成都の米国総領事館を接収した。
7月23日にポンぺオは,「共産主義中国と自由世界の未来」と題して,カリフォルニアで演説した。経済的発展を支援して中国の民主化を促すアメリカの歴代政治の「関与政策」は「失敗した」と改めて断じた。中国共産党(CCP)に行動転換を促すため「自由主義諸国が行動する時だ」と宣言し,「米国がやったように互恵性と透明性,説明義務を迫らないといけない」と各国に呼び掛け,「私たちが共産主義の中国を変えなければ,彼らが私たちを変える」と言った。トランプも23日「中国との貿易合意の意味は私にははるかに薄れた」と述べた。こうした考えは,アメリカの共和党,民主党,両議会で完全に一致している。
トランプは,南シナ海に,アメリカの空母2隻と駆逐艦を向かわせ,これにイギリスの戦艦1隻,オーストラリアの戦艦1隻が結集している。
彼を知り,己を知ること
世の中はどんどん変化する。自分の国も他の諸国も変化してきており,世界の国際関係も変わってきている。とくにデジタル時代に入り,その変化のスピードを上げできた。昔は60年から80年ぐらいたつと大きな変化が出てくるが,今や30年から40年ぐらいたつと世の中は様変わりしてきている。重要なことは,世の中が大きく変化したところで,「サイエンス・マインド」で自分自身と自分の立場がどう変わっているのか,そして関係する諸外国がどう変わってきたかを分析して「真理」を掴み,すべてを再定義し,新しい国家戦略を立てて,行動することである。そして過去の行動が間違いであると分かれば,直ちに改めなければならない。「孫子の兵法」の教えの通り,「彼を知り己を知れば百戦殆ふからず」である。これをやれない国は衰退する。
アメリカは,常に自身の変化と関係諸国の変化を分析し,国家のあり方,世界戦略の新しい方針を決めて,動いてきている。アメリカは,多くのシンクタンクを持ち,外交官,FBI,CIAが世界の情報を集め,議会が主体となり常に新しい国家戦略を策定し,実施している。
アメリカは,1980年からの「グローバル化の行き過ぎ」がアメリカ経済を衰退させ,アメリカの社会構造を壊してきたことを分析・認識し,トランプが大統領になってから「ポスト・グローバル化」に舵を切り,これを正そうと動き始めている。
そのグローバル化のなかで,1979年米中国交樹立以来,アメリカは,大きな中国市場を利用して儲けようとしてきた。共産主義の中国は経済が豊かになれば民主化し,資本主義国と同じ価値観を持つ国になり,国際社会の一員として責任ある行動をとるようになるだろうと期待して,アメリカは,資本と技術をふんだんに中国に与えて,「世界の工場」を作り,この「エンゲイジメント政策」により,中国経済を発展させてきた。しかしこの10年の中国の習近平の動きを見て,アメリカは,中国は共産主義的支配構造を捨てないであろうと認識した。こうして先のポンぺオの演説のように,中国へのアメリカの「エンゲイジメント政策(関与政策)」が誤りであることを認め,中国共産党政府を叩くことを,アメリカの共和党,民主党,全議会が一致して合意し,動き始めた。そのためにイギリス,インド,オーストラリア,カナダに働きかけ,一緒になり中国共産党を叩こうとしている。しかしポンぺオは中国の国民を叩くのではないと言っている。
イギリス,台湾,オーストラリアなどは,時代の変化を自分で感知し,それに対処する戦略をたて,俊敏に動いている。イギリスのボリス・ジョンソン首相は,イギリスはEUの中では,EU本部に支配され,国家主権が制限されているために「ブレグジット」を決めた。オーストラリアのスコット・モリソンは,中国により「目に見えぬ侵略」を受けていたことを知り,親中派を抑えて,中国に反抗している。
中国は,「孫子の兵法」を身に着け,最近は「超限戦争の展開」で,常に世界の変化を洗い替えして,新しい戦略を立て「共産党の目的」としての世界に中国共産主義を広げるために,他国の技術を盗みながら「千人計画」などで他国の人材を取り込み,世界を侵略している。「兵は詭道なり」で行動している。
日本は,トランプとポンぺオの中国へのこの「宣戦布告」にびっくりしており,馬鹿なトランプがまた変なことをやっているなぐらいにしか思っていない。日本は,レーガン大統領に中曽根首相と小泉首相がそそのかされてグローバル化に走ったが,グローバル化の行き過ぎの弊害にも気づかず,未だにグローバル化に走っている。中国共産党は「世界拡張主義」を進め,諸外国に対して「超限戦」により侵略しているが,日本は,中国がいろいろの形で日本を侵略していることに気付かず,政治家にも,産業界にも親中派が多く,いまだに中国に忖度している。トランプは,中国共産党を叩くだけではなく,親中派の国にも厳しい経済制裁,金融制裁を加えるためのいろいろの条例を作っている。
日本は,時代の変化の中で自分自身の変化,諸外国の変化,世界経済構造の変化を深く分析し,認識することをしないし,難しいことは自分では考えたく,それに「障子を閉める」国かもしれない。いつも外の変化に押されて動き,外からの「黒船」が来ないと動かない。最近は,黒船が襲って来てもそれに気づかない。日本人は,決めたことが誤りで,国益に反すると分かってもそれを改めようとしない。かつて日本が第二次世界大戦に突入したとき,日本とアメリカの本当の実力を分析していたら,歴史は違ったものになっていた筈である。
1960年から1980年の日本経済の奇跡的な発展には日本の頭脳である「経済企画庁」,「内務省」の力があったと言われており,アメリカは日本の経済力を弱体化するために「経済企画庁」「内務省」の組織を解体してしまった。
中国という国
中国は,王朝の支配の国であり,国民をベースにした民主主義,自由と法治がない国である。中国はウイグル,内蒙古,チベットを次々と乗っ取り,大きな国になった。中国の王朝は,人民を国民としてではなく,農奴,奴隷として扱ってきた。中国では農奴・奴隷のような民が食えなくなると暴動を起こし,その王朝を倒してきた。全体主義の共産党中国でも,民は農奴・奴隷とみられ,自由な国民としては扱われていない。
中国は,漢,明,宋の時代まではある程度発展してきたが,宋以降外国に侵略され植民地になった。イギリス,アメリカにアヘンでやられ,国は衰退していた。
しかし毛沢東は,レーニン思想を拝借し,アメリカから金をもらって共産党を組織し,農民を奴隷のように使って大きくなってきた全体主義の国であり,「中華民国」の夢を実現したいと思っている。中国は,「国家情報法」に基づき,「千粒の砂」などで人民を使い,世界中から情報を集めて分析し,世界制覇の戦略を立てている。中国は,かつてのコミンテルンのように,共産主義のDNAにより他国を侵略して国土をどんどん拡大して,世界制覇をしようとしている。「一帯一路」戦略でヨーロッパ,アフリカ,アジアを自分の版図に入れようとし,日本をも属国にしようとして動いてきている。日本の親中派がそのための「引き込み屋」として動いている。
中国の「民は胃の腑で動く」と言われ,土地を取られ,疫病が襲い,食べるものが無くなると,中国の民は暴動を起こし,王朝を倒す。これが中国の歴史である。アメリカは,中国の人民が暴動を起こし,習近平の共産党を転覆するように仕掛けているのかもしれない。
鄧小平は「韜光養晦」で,爪を隠し,改革開放政策で,経済を拡大しtが,覇権を取りに行くとは決して言わなかったが,習近平は「中国製造2025」で覇権国になることを宣言してしまった。これで習近平はアメリカの虎の尾を踏んでしまい,アメリカが今中国共産党を潰そうとしている。しかし中国の現在の状況からすると,習近平が今一番恐れているのは中国の人民であるとアメリカは見ている。
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