世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1856
世界経済評論IMPACT No.1856

韓国と北朝鮮の経済交流:「民族内部交易」の法的構造

上澤宏之

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2020.08.31

 南北融和の象徴とされてきた南北朝鮮間の経済交流が2016年2月の開城工業団地の閉鎖により途絶えている。韓国と北朝鮮の経済交流は,1998年に韓国で革新政権である金大中政権が発足してから本格化した。冷戦終焉によりソ連という後ろ盾を失った北朝鮮は体制の生き残りをかけて韓国への経済的接近を強めた。対北朝鮮支援を謳った金大中大統領の「ベルリン演説」を受けて北朝鮮は2000年6月,分断史上初めてとなる南北首脳会談を北朝鮮・平壌で開催した。会談では北朝鮮の金正日総書記と金大中大統領との間で5項目からなる南北共同宣言が採択された。共同宣言の第3条では,南北双方が「経済協力を通じて民族経済を均衡的に発展させる」ことが強調され,その後,南北経済交流が大きく進展した。

 この南北経済交流の特徴の一つに民族内部の取引(交易)が挙げられる。南北双方は停戦協定下にある分裂国家であるが,同時に国連加盟国でもあり,両国の国際法的な地位は確立している。しかし,南北双方とも朝鮮半島における唯一の合法政権であると主張している。そのため,南北双方は経済交流において国家間貿易,対外貿易とは異なり,自国領土内での交易と定めている。韓国は南北交易が「民族内部の取引」という特殊性に鑑み,北朝鮮から搬入される物品については,1990年に制定された「南北交流協力に関する法律」第26条及び同法施行令第50条第3項で「関税・その他搬入物品に賦課する賦課金を免除」する無関税制度を採用している。また,北朝鮮に搬出される物品についても同法第26条で南北交易の活性化に向けて通常の輸出に準じた各種支援制度を準用している。一方,北朝鮮も2005年に「北南経済協力法」を制定し,「民族経済の発展」に向けて韓国との無関税交易を謳うなど,南北経済協力に関する法制度を整備している。

 WTOに加盟している中国や台湾,香港がそれぞれ独立した関税領域として存在しているのとは異なり,南北朝鮮の経済交流は内国取引の原則に基づき交易が行われてきた。そのため,WTO非加盟国である北朝鮮との交易が経済交流の拡大とともに争点化してきた。その代表例が原産地問題である。たとえば,北朝鮮地域にある開城工業団地で生産された製品を第三国に輸出する場合,生産方式から国によっては北朝鮮製と認定され,関税が高くなるなど輸出条件が不利になる。韓国は各国とのFTA締結に際して個別に韓国製と同じ特恵関税の対象となる域外加工条項の設置を求めているが,シンガポールやEFTA,ASEANなどで一部認められたのみである。米韓FTAの締結(2007年)の際は,「朝鮮半島における非核化」などで進展がみられれば,開城工業団地を域外加工区域に指定できるとの付属書が採択されるなど,韓国にとって厳しい条件がつきつけられた。

 現在,韓国の文在寅政権は開城工業団地をはじめとした南北経済交流の再開に向けた意欲を見せているが,国連安保理による一連の対北制裁などによって身動きできない状況にある。今年7月に統一部長官に就任した与党重鎮の李仁栄(イ・イニョン)「共に民主党」国会議員は「苦肉の策」として,制裁品目以外の北朝鮮のミネラルウォーターや酒と韓国のコメ,薬品などを第三国経由で搬出入する「物々交換」の交易可能性などを探っているが,これとても取引相手の北朝鮮企業が制裁対象に含まれていれば,制裁に抵触するなどの問題が残る。

 こうした現実は,すでに韓国と北朝鮮の経済交流が「民族内部交易」を超えて「国際貿易」への変貌を遂げていることを意味しているといえよう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1856.html)

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