世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナ禍がjob型雇用へと岩盤を動かし始めた
(元文京学院大学 客員教授)
2020.08.10
前回コラム執筆時(20/01/20)はまだ当時コロナ禍は始まってなかったが,日本はマネージャークラスの雇用慣行を早急にjob(職務)型に改めないと,今世界で繰り広げられている「生き残るための大競争」から取り残されるのではないかと強く危惧していると書いた。
コロナ禍の到来を予見していたわけではないが,40年間海外事業に専念して特にイタリアに14年間滞在して同国No1といわれる会社を作り上げ,その過程で北イタリアビジネスエリートたちのすさまじい競争力を見せつけられた経験から,日本でも早晩job型雇用への変化を予想した。企業競争力を支える根底にjob型雇用があることを悟ったからである。コロナ禍はニュ―ノーマルのon-lineビジネスの下では,従来のメンバーシップ型雇用は機能しないことを見事に白日の下にさらした。
今までは仕事とは会社という場で一緒に,連絡,報告,相談をしながら上司の指示と仲間意識のもとで行うものであった。この体制下では「彼はよく相談に来る,人間関係も良い,遅くまで残ってよくやっている。」といった業務以外のものが人事評価に恣意的に加えられていた。よく働いているように見せるのが旨い人が,より評価されることが往々にしてあったのである。だから人は人間関係にかなりの時間をさく。本来の仕事の効率が下がる。
ところがon-lineビジネスの下では,上司は部下を仕事の具体的成果でしか評価できなくなる。これからはどこでどのようにしてやったかは問わず,成果は成果として公平に評価しなければならない。
既に幾つかの企業はコロナ禍による今回の新常態は企業の働き方の根幹を揺るがす重大事であることにようやく気付き,この1週間でも日本を代表する大企業である日立製作所,KDDI,三菱ケミカルなどがマネージャーの雇用形態をJOB型に変える決断をし公表している。来年度には大多数の企業がこの制度を取り入れていくことになると考えている。
筆者は本欄(20/7/20)にてOECDの2018年データを引用して「日本人のⅠ時間あたり労働生産性は米欧比4割低い」と述べた。私はミラノのAlcantara 本社(人工皮革の製造販売)でトップマネジメントとして働いていたのだが,そこには約100人のイタリア人が働いており。そのうちの6人が管理職(dirigente)であった。その中に私が一人日本人としていたのである。会社の資本は100%日本資本。徹底的な現地化経営を行い北イタリア人の力を最大限引き出し,上に述べたようにイタリアNO1といわれるまでに育てあげたのである。
かねがね彼ら管理職は日本のそれの少なくとも2倍は働いているなという印象を持っていた。ヨ―ロツパには「北イタリアのEXECUTIVEは狂気の様に働く」という言葉があるくらいである。彼等がなぜこのように効率よく働くのか,私はこの国の処遇制度,特にJOB型の雇用形態が彼等のやる気と能力をフルに引き出しているからだと思っている。
仕事上で具体的成果を挙げれば,報酬としてはっきりと自身に帰ってくるからである。
彼等は小さい時から「貴方の個性を持て。それを生かしたライフワークを見つけなさい」といわれて育った。
就職の時には自分の志がかなえられる職場を探す。入社の際には職務内容と待遇が詳細に決められる。いわゆる職務給であり。管理職の場合には年に1度今後3か年の仕事の達成計画と本年度の担当部門の予算が定量的または定性的に作成され,1年ごとに修正が加えられる。
月に一度管理職会議(工場の管理職を加え12人ぐらい)で達成度のレビ―ユがおこなわれる。年度末には現地人TOPが作成した勤務評定書を基に各管理者と1−2時間ぐらいかけて議論を行う。ここには部下および同僚の評価表も参考にされる。360度評価である。
評価が可能な限り〈見える化〉されており,言いたいこと,不満があれば遠慮なく言い合えるようになっている。自分のcareer path上どうしても不満がある場合,それを受け入れてくれる職場を探し転職した経理部長がいた。また会社の方針にどうしても合わず解雇した例もあった。ただし筆者が勤務した14年間でこうした事例は上記の2件だけであり,ヨ―ロッパではアメリカとは様子を異にしており,すこぶる愛社心があり相互の連帯もあつてこうした移動は限られている。
彼等が担当している仕事はもともと自分が好きで入った分野であり,ここで成果を上げ成長していくのが楽しくてしょうがないのだ。仕事の能率も上がろうというものだ。だから彼等は日本の管理職より生き生きと生きている。
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