世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1790
世界経済評論IMPACT No.1790

2020年秋,「世界の終末」は起こるか?:連邦検事解任の背景

吉川圭一

(Global Issues Institute CEO)

2020.06.29

 2020年6月19日,バー検事総長は7月3日にニューヨーク南地区担当連邦検事バーマン氏が辞任し,米国証券取引委員会(SEC)委員長クレイトン氏が後任に指名されると発表。だがバーマン氏は「大統領に任命された候補者が上院で承認されるまで」辞任しないと述べた。

 もともとバーマン氏は2018年1月,司法長官セッションにより120日間の暫定として任命された。2018年4月25日,ニューヨーク州南部地区の裁判官は満場一致で「空席がなくなるまで」の不確定な任期でバーマンを認めた。これには上院によって承認された大統領の指名候補者が含まれる場合と含まれない場合がある。バーマンは,その手続的な問題を言っただけだった。

 しかし連邦検事の上院での承認には,その人物が連邦検事として担当する地区の州選出の上院議員による推薦が必要で,ニューヨーク州選出の上院議員は二人とも民主党の有力者なので,その推薦を得るのは非常に難しい。

 そこで6月20日,バーマン氏はバー氏の要請によりトランプ氏に解雇され,副検事のシュトラウスが代理人を務めることになった。その後,バーマン氏は直ちに辞任した。やはりバーマンは手続的な問題にこだわっていただけだった。

 だが,この時バーマンはトランプの個人弁護士ジュリアーニをウクライナでの彼の活動に関連した犯罪の疑いで捜査していた。このジュリアーニが個人の資格でウクライナやトルコとの外交をトランプ氏から任され,色々な裏マネー等にも関係していたのではないか?—という問題は,ボルトン氏の回顧録で最も重要な問題として取り上げられ,バーマン解任はトランプ政権のスキャンダル隠蔽のためではないかと疑われた。

 下院司法委員会委員長ナドラー氏は6月22日の夕方,バー司法長官に召喚状を提出し,バーマン氏の解任について証言を求める方針である。

 しかしバーマン氏の後任のシュトラウス氏は,バーマン氏と同様の方針の人物で,ジュリアーニに対する追及が止まるわけではない。しかもバーマン氏はニューヨーク南部地区連邦検事になることにジュリアーニに反対されていた。逆に同じ会社の顧問をしていたこともあった。それで真に客観的な調査ができるだろうか? シュトラウス氏による客観的な調査は,ジュリアーニに有利になるかも知れないが不利になる可能性もある。

 むしろトランプ政権の真の目的は,クレイトンSEC委員長をニューヨーク南部地区担当連邦検事にすることの方にあった。実はバーマン氏には,より上級の地位が用意されていた。それが前述のような手続き上の問題で混乱が起きただけのことをリベラル派メディアが大統領や司法長官の信用を落とすために大騒ぎにしたのである。

 クレイトン氏は在野からリーマン危機に対処した金融のプロである。

 リーマン危機とは単に不動産担保証券が破綻しただけではない。レヴァレッジを大きくするため,それと石油の先物のような,よりリスクの高い金融取引とを結びつけた,いわゆるデリバッティブが,不動産担保証券の破綻により全体のレバレッジが逆転し,莫大な追加保証金が発生した。それが,あの超巨額な不良債権の原因なのである。

 それは半年前のベア・スターンズ社の破綻も同様だった。そのため2008年夏にはイラク戦争終結のお陰で石油の実需に余剰があったにも関わらず,石油価格の高騰が起きた。先物市場でのレバレッジの逆転が実体市場に反映されてしまったのである。

 つまりベア社の破綻以降もウオール街の金融機関は,リスクの高いデリバッティブの運用を止めていなかったのである。

 それをウオール街の金融機関は帳簿上の科目の付け替え等で何とかして表面化させないようにした。一種の「金融詐欺」だ。

 だが米国の会計年度の終わる9月には,そのような隠蔽の限界が来た。そこでリーマン危機が起きたのである。

 そのような事情をよく知るクレイトン氏がSEC委員長よりウオール街を管轄するニューヨーク南部地区連邦検事になったのはコロナ封鎖で5月に原油価格がマイナスになったりしたためリーマン以上の不良債権をウオール街が抱えていて,それを強制的に消化させるためではないか?

 6月22日に米国最高裁は証券取引委員会が金融詐欺を犯した者から利益を取り戻す能力を支持したが,SECの回収の試みは被害者である投資家に利益をもたらす目的で行われるべきだと述べた。

 バーマン解任とは時間的に少し前後するが,このような判決が出ることは予想されていたのではないか? この最高裁の論理からすると,投資家に被害をもたらしていない科目の付け替え等は,SECの権限の対象外になる。

 だが連邦検事であれば不正経理等で問題に出来る。今のままでは隠されたままのリーマン以上の不良債権が,また今年の9月に爆発し,金融的な「世界の終末」になるかも知れない。

 一刻も早くクレイトン氏をニューヨーク南部地区連邦検事にするべきだろう。彼であればウオール街の金融機関の隠蔽を暴き,不良資産の早期消化を促すことが出来るかも知れない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1790.html)

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