世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1684
世界経済評論IMPACT No.1684

コロナ問題の本質を問う

原 勲

(北星学園大学 名誉教授)

2020.04.06

 今更書くまでもないことかもしれないが,昨年末に発症がみられた中国武漢でのコロナウイルス感染状況について,今年1月患者数7700人,死者数170人であると初めて公表された。しかし,このとき現在日本の感染症対策専門家会議の理論的指導者北大工学部研究院(理論免疫学)の西浦博教授は,この数字には間違いがあり,2月第1週までに10万人に達するという推計値を出し世界を驚かせた。後に分かったことだがこの当時は3日間で2万人ずつ発症するというオーバーシュートへの勢いの時期であった。

 西浦教授は,また3月2日当時77人の発症段階であった北海道の感染者は940人であると発表,当時感染者数は全国一ではあった(当時54人)が,まだそれほどの罹患者数ではないと考えていた北海道民は衝撃を受けた。西浦教授の計数値は,湖北省武漢の基礎データの研究から分析されたものであり,今日専門家会議の中心人物として日本全体に大きな影響力を与えている。最もいち早く反応したのは北海道である。特に全国一若い39歳の今年知事になりたての鈴木直道氏は,2月26日「新型ウイルス感染症に対応した学校の臨時休業等の要請について」2月28日「新型ウイルス緊急事態宣言」,2月29日「新型ウイルス感染症への緊急要望」,を矢継ぎ早に発表,特に3月2日以降「換気が悪く人が大勢集まる場所には行かないこと」「風邪気味の方は自宅で休んで戴くこと」などのメッセージを記者会見,TVやホームページを通じて要請した。特に緊急事態宣言は2/28~3/19の期間を設定し,これは3月2日の国の専門家会議見解発表,3月10日政府の特措法改正閣議決定を受けて終了したが,ほとんどの対策はこれから国が行おうとしているものと同列であるから対策の基本は変わらない。このいわば北海道モデルがコロナ対策で全てうまく行っているという訳ではないが(3月28日現在感染者171名,全国第3位),西浦教授という卓越した専門的能力のある人の存在や知事などの政治指導者の素早い強力果敢なリーダーシップが危機時には何物にも勝って重要であるのを目の当たりにしている札幌在住の人間として一言書いた。

 さて次に世界情勢と本稿最後に直面する日本経済の緊急課題について述べていく。新型コロナウイルスの世界的流行は3月11日のWHOのパンデミック宣言以降も留まるどころかむしろ急拡大している。武漢はようやく終息したようだが,ヨーロッパ各国(特にイタリア,スペイン,フランス)中東(イラン)は,世界の1,2を争う勢いで罹患者が増加している。驚愕するのは,3月26日時点でアメリカの感染者が82,404人(3月30日10万人を超えた)となり,首位であった中国の81,789人を上回って世界最大となったことである。なおイタリアは80,589人,第三位の感染者数であるが,膨大な感染者に対応できず医療崩壊状態で致死率が10%に達する悲劇的状況になっている。日本は同年で感染者1,089人,死亡者41人であるが,世界的水準からみてウイルス検査数が極めて少ないことが感染者数を極端に低位にしている要因であることは間違いなく,今後ウイルス検査数が増大すれば数値が一気に拡大していく懸念がある。

 では欧米諸国がコロナ蔓延に無策であるかといえばそんなことはない。アメリカは各地の州法を根拠に非常事態宣言を出し,外出は出勤禁止命令,商店は閉鎖(持ち帰り,宅配を除く),学校は全て休校,集まりは全て禁止である。イギリスはコロナウイルス法に基づき,外出,商店,学校,集まり(三人以上)は,全て禁止,違反すれば60ポンド(約8,000円)の罰金を課す。ドイツは感染症予防法によってほぼアメリカと条件は相似であるが,ホームドクター制の下で致死率は0.2%,世界で最も低い。なお罰金は25,000ユーロ(訳300万円)で最も高い(以上三か国の対応は元NYタイムス東京特派員ジョナサン・ソーブル氏による-3/27 BSTBSTV)。このような対応はほぼ諸外国で共通して取られているものであり,各国の中心都市は閉鎖状態(ロックダウン)で人の移動は少なく人影はまばらである。当然のことから経済活動はなくなり,少し長引けば経済成長率は大幅にマイナスとなることが予想され,資本主義経済の最大の危機であった1930年代の世界恐慌,2007年のリーマンショック以来の大不況になるのではないかと考えられている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1684.html)

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