世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.552

“Make in India” と印台ITパートナーシップの形成

小島 眞

(拓殖大学 教授)

2015.12.07

“Make in India” の意義とその狙い

 1990年代以降,インド経済は経済改革の下で世界経済との接合を強め,新たな拡大を遂げるようになったが,それは製造業に牽引された東アジア型の発展とは異なり,サービス主導型のものであった。自動車産業,製薬産業など一部の製造業では輸出競争力を有し,注目されるべき拡大を遂げている業種もあるが,工業部門全体の拡大は相対的に緩慢であった。これまでインドでは明確な産業育成策が展開されてきたことはなく,製造業においては零細部門を保護することはあっても,国内産業の競争力強化を狙った保護育成政策は存在しなかったといえる。

 しかし近年,インドでは製造業の本格的な拡大に向けて新たな機運が生じる状況にある。2011年に発表された国家製造業政策(National Manufacturing Policy, NMP)においては,製造業の年間平均成長率を12〜14%のレベルに引き上げ,2022年までにGDPに占める製造業のシェアを15〜16%から25%にまで拡大させ,1億人分の追加雇用を創出することが目指されている。さらに昨年5月にBJP政権が成立するに伴い,モディ首相自らの陣頭指揮に基づいて,”Make in India” キャンペーンが精力的に展開されている。これは外国直接投資を呼び込み,それを製造業の振興に活用することを狙ったものである。

 昨年9月,モディ首相が訪日した際,日本政府は今後5年間で約1200社に及ぶ日系企業の進出数と直接投資額の倍増を目指し,官民で3兆5000億円(約300億ドル)の投融資を行うことを表明した。さらには同9月に習近平国家主席が訪印した際,中国政府は今後5年間で200億ドルの対印投資を約束するとともに,グジャラートとマハラシュトラにおいて中国企業専用の工業団地を建設する意向を示した。

 ここで特に注目されるのは,昨今,インドで携帯電話,さらにはスマートフォンが爆発的に浸透するようになったことを背景として,台湾企業が対印直接投資に向けて大きく舵を切るようになったことである。インドと台湾は,それぞれの得意分野がソフトウェア,ハードウェアという相違はありながら,ともに米国との間で形成された太い人的パイプがその後のIT産業の発展に不可欠な役割を果たしたという点では共通している。

台湾企業の対印進出とグローバル・サプライチェーン

 今年8月,売上高1300億ドル規模の世界最大のEMS(電子機器受託製造)企業であるホンハイ(鴻海精密工業)は,マハラシュトラ州政府との間でMoU(合意書)を締結し,今後5年間で50億ドル規模の投資を行うことになった。そこでは1500エーカーの用地にエレクトニクス工場とR&Dセンターを設立し,5万人の雇用創出が目指されている。さらに同社は中国の携帯メーカーである小米と提携して,同8月にはアンドラ・プラデーシュ州のスリ・シティの工場において小米のスマートフォンの製造をすでに開始するにいたっている。また宏達国際電子,華碩電脳の台湾企業2社はすでにインドで自社ブランドのスマートフォンを販売しているが,いずれもコスト削減,シェア拡大を目指して,スマートフォンのインドでの現地生産を検討している。

 こうした台湾企業のインド進出は,今後,インドでのエレクトロニクス製造業の確立に寄与するものとして重要な意味を持っている。東アジアでは貿易,直接投資を通じて国際的サプライチェーンが形成され,日本を筆頭に順次,経済発展がアジアNIES,ASEAN先行国,中国に伝播するという雁行形態的発展が見られた。こうした中,OEM(相手先ブランド製造),ODM(相手先ブランド設計・製造),さらにはEMS方式に基づいて,中国を生産拠点として最大限に活用してきたのが台湾企業である。

 今年9月末現在,インドの携帯電話の実際上の加入者数は8億9400万に達するとともに,スマートフォン市場も2017年までには米国を凌駕する勢いで急速な拡大を示しており,サムスン,アップル,マイクロマックス,小米,レノボ・モトローラなど多数の国内外の携帯メーカーが鎬を削る形で参入している。折しも ”Make in India” が叫ばれ,台湾企業を含む外国企業の誘致による製造業の確立が強く目指されている中,対中投資の偏重に伴う地理的リスクの軽減という観点からも,台湾企業がインド進出を図るということは当然の流れであるといえる。

 インドはエレクトロニクスのハードウェア製造では遅れている一方,チップデザインや組み込みソフトウェアではグローバル・ソーシングの最右翼としての地位を確立している。インド政府は,両者を融合させたエレクトロシステムデザイン・製造(ESDM)の世界的ハブにするという目標を掲げており,そのためには家電,IT製品・装置のベンダーを配置したグローバル・サプライチェーンをインドに呼び込むことが不可欠とされている。台湾企業によるインドでの生産拠点設立に向けての動きは,インドからすれば,その目標実現に向けての歓迎すべき兆候であるといえよう。

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